「イヤなのか?」
「い、イヤじゃねぇが……」
頬を真っ赤に染めて視線を反らす仕草に、目が離せなくなった。
ついっと顎を持ち上げれば、開いていた瞳をそっと閉じる。
形のいい唇の輪郭を指でなぞり甘い吐息を洩らす様をじっくりと観察する。
しばらくそんな事を繰り返していると薬師寺が不満そうな声をあげる。
「キス、しないのか?」
期待させやがってと言わんばかりに瞳を開けてこちらを見る彼が可笑しくて思わず噴出してしまいそうになる。
「なんだ、して欲しかったのか?」
「ち、違うっ! 俺は別に……っ」
真っ赤になっていいわけをしようとする彼の口を眉村はそっと塞ぐ。
そっと触れれるだけのキスを繰り返すと、もどかしそうに舌を絡ませてきた。
「素直じゃないな」
ポツリと小声で呟くと、薬師寺はカァッとさらに頬を赤らめた。
その仕草がなんとも新鮮で深く口付け、ゆっくりとベッドに押し倒した。
「!!」
どさっと音を立てて組み敷くと、薬師寺は今にも湯気が出そうなほど真っ赤になった。
「ちょっと、待て! あ、明日試合だしこういう事はっ」
「何を期待している?」
「……っ!」
慌てる彼を余所に、ジャージの裾に手をかけた。首筋に舌を這わされゾクゾクするような感覚に襲われる。
(どうすんだ! なんか変な雰囲気になってきた……)
早く引き離さないと、後戻りできそうに無い気がして必死に抵抗してみるものの、うまく力が入らずに眉村が首筋にキュッと吸い付くたびに、ビクと身体を震わせる。
「ぁっ」
胸の飾りに吸い付かれ、小さく声が洩れた。
慌てて口を手で覆い、それ以上声が洩れないように必死にガマンする。
(ダメだっ、そりゃ、男同士でどうやるのか、少しは興味あるけど。でも、まだ心の準備が……)
沸き起こる甘い快感に反応を示しながらも葛藤を続けていると、彼の手がズボンの中へ侵入しそうになった。
その瞬間、薬師寺は先日寿也に聞かされたことを思いだした。
「男同士は、後ろの穴で愛し合うんだよ。最初は痛いけど、慣れれば全然平気だから」
くすくす笑いながら、何気ない会話のときに突然言われた衝撃的な言葉。
それによって、薬師寺は一気に現実に連れ戻された。
「だ、だぁ……っ止めろぉ!!」
サーッと血の気が引いてゆくのを感じ、咄嗟に両手で突っぱねる。
「!?」
驚いて固まっている彼をよそに、薬師寺はベッドから降りて逃げるようにして部屋を後にした。
いい雰囲気になって、このまま――。
そう思っていた眉村は突然の出来事に茫然と去っていったドアを見つめることしか出来なかった。
「どうしたんだ、突然?」
むなしく響く自分の声がいつまでも耳に残っていた。
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