翌日の早朝から薬師寺の練習が始まった。
だが、眉村の球がそう簡単に討ち取れるはずもなく、思わずバットにもたれかかる。
「眉村、もっと手加減しろよ」
「手加減してたら上手くならんだろう」
「それはそうだが……」
二人のやり取りを寿也は黙ったままみていた。
どことなく、嬉しそうな表情の眉村に驚きを隠せなかった。
「海堂で三番だったんだ。もっと本気を出せば余裕で打てるはずだ」
「いきなりは無理に決まってるじゃねぇか。お前自分がリーグ五位の実力者だってわかってんのか? とにかく、一旦止めて飯食いに行こうぜ」
「仕方がない。そうするか」
薬師寺の言葉に二人も賛同し、食堂へ向かう。
「ごめんね薬師寺。僕お邪魔だったりしてない?」
前を歩く眉村に聞こえないように、寿也は薬師寺の隣でボソボソと尋ねた。
「別に。どうしたんだよ、んな事言って」
「だって、付き合ってんだろ?」
「は? はぁぁっ!?」
寿也の言葉に薬師寺はなんで知っているんだといわんばかりの表情をする。
「あれ、違う? 眉村がそう言ってたんだけど」
「……あんの野郎!!」
薬師寺はスタスタと前を歩く彼をにらみつけた。
(余計なこと、言いやがって)
「大丈夫。誰にも言うつもりはないから! 僕も仲間がいて嬉しいし」
にっこりと笑う寿也に、薬師寺はため息が洩れた。
朝食を済ませ、それぞれのチーム練習を行い、夕方はまたヒミツのバッティング練習を行う。
そんな野球漬けの毎日を三人は過ごしていた。
そんな彼らを遠くで見ている人物が一人。
日本代表代表の監督 佐々木だった。
(……遅うまでようやっとるな)
実力はまだ日本代表レベルには及ばないが、意気込みは伝わってくる。
(今はまだ即戦力にはならんが、……今度の試合で結果を残せたら考えてやってもええかもしれん)
目を細めて、腰をトントンとたたきながら、彼らのいる屋内ブルペンを後にした。
前/オワリ