海堂編

LoveSick


去っていったドアを見つめ、薬師寺は力なくベッドに倒れ込んだ。

本当はもう少しだけ一緒にいて欲しかったのだが、さすがにそんな事言えるわけもなくつい躊躇ってしまった。

(アレさえ聞こえてこなけりゃもう少し一緒にいられたのに……)

自分が意識してしまったのがいけなかったのだろう。気まずい雰囲気を作ってしまった原因は未だ続いていて思わず苦笑する。

明日、寿也に嫌味の一つでも言ってやろうか?

そう思ったが、単なる八つ当たりだと気がつき布団に潜り込む。

(それにしても……マジで男同士どうやってヤるんだ?)

そんなことばかりを頭に浮かべる自分がなんとなく可笑しかった。


朝食の時、顔を合わせた寿也から吾郎がさっさと荷物をまとめて神奈川へ戻ったことを聞かされた。

眉村は驚いていたが、薬師寺はどことなくホッとしていた。

合宿が終わる二月十四日まであと三週間。

その間、彼が吾郎に囚われることなく自分だけを見てくれるチャンスだ。

「佐藤。お前、ヤるんならもう少し抑えてヤれ。壁伝いに筒抜けだったぞ」

突然、眉村が声をかけたので、寿也も薬師寺もギョッとした。

(なんてストレートな言い方をするんだっ!)

「眉村の部屋は階が違うだろ? どうして君がそんな事知ってるのさ。誰かの間違いじゃないのかい?

焦る薬師寺とは対照的に寿也は冷静だった。チラリと視線を向けられて、反射的に視線をそらしてしまう。

「ちょうど部屋に遊びに行ってたんだが、アレはさすがに参った」

「ふぅん……じゃぁ、薬師寺も聞いちゃったって事か」

そう言われ、返答に困る。

(なんで落ち着いてんだ? 佐藤! 普通そんなプライベートな事突っ込まれたらもっと慌てるだろ!?)

彼の異常なまでの落ち着きっぷりに薬師寺は戸惑った。

「ごめんね、軽蔑するならそれでも構わないから」

耳のすぐ横でぼそりと言われ、薬師寺は慌てて首を振った。

「別にいいんじゃねぇか、男同士でも」

「へぇ、薬師寺がそんなに理解力のあるヤツだとは思わなかったよ」

寿也が、驚いた表情をして見つめる。

まさか自分も、男が好きになったとは到底言えず再び視線をそらした。

「それにしても、残念だったな佐藤。茂野と離れて」

寂しくなるだろ? 眉村がそういうと、寿也はクスッと笑った。

「平気だよ。僕が日本代表になってアメリカへ行けば、また会えるから。それに……」

夕べ三か月分まとめてシたから寂しくないよ。そう言って機嫌よく朝食を食べる。

薬師寺はそれを聞いて思わずパンを詰まらせそうになった。

「おい、大丈夫か?」

「あ、ぁあ」

(な、なんつう会話だよ。朝っぱらから内容の濃い話だな)

自然と、頬が赤くなり平静を装う為に紅茶の入ったカップに口をつける。

「どうりで、茂野の声がいつもよりデカイはずだ」

「ブッ!! ゲホッゲホッ」

眉村の言葉に、薬師寺は思わず椅子から落ちそうになった。

(なんなんだ、こいつら……なんで平然とそんな会話ができるんだ!? もう、俺はついていけねぇ)

もはや自分の理解力を超越した二人に引きつり笑いを浮かべることしか出来ず、いつか自分もこんな会話をする日が来るのだろうか? とちょっと不安に思う薬師寺だった。


/ススム




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