ロッカー室での会話の後、吾郎はキーンの部屋に来ていた。
「なぁ、キーン。お前さっきから何やってんだ?」
てっきりいい雰囲気になるだろうと予想していた吾郎は、先ほどからなにやら書類を目配せしている相手に首を傾げる。
「何って、明日の試合の選手のデータを覚えてるとこだ。気が散るから話しかけるな」
話しかけるなと言われ、ムッとした。
じゃぁ、なぜ自分を部屋に呼んだのかと疑問に思う。
「俺、邪魔みたいだし……部屋に戻るわ」
ベットから立ち上がり、ドアノブに手をかけたところで、腕を掴まれた。
「なんだよ。俺がいると気が散るんだろ?」
「別にシゲノが居たって問題は無い。もう少しで覚えるから待ってろ」
(待ってろって……相変わらず偉そうなヤツだな)
「……今夜は、ここに泊まれ」
「なにぃっ!?」
抱きしめられて耳元で囁かれ思わ素頓狂な声を上げる。
「と、泊まれって……そんないきなり……やらしいな、お前」
何考えてんだよ。
と言いながら頬を染める。
そんな吾郎を見て、キーンは首を竦めた。
「なぜ俺がやらしいんだ。俺は別に泊まれと言っただけだ。変な期待をしているのは、お前のほうじゃないのか?」
「なっ、俺は別に……!」
指摘され顔中が火のように熱くなり、真っ赤になる。
「まぁ、お前がそんなに抱いて欲しいというのなら抱いてやってもいいが、明日の試合でお前が使い物にならんと困るからな」
「だから別に抱いて欲しいなんて思ってねぇっての!」
必死になって言い訳をする吾郎をみてキーンはフッと笑みを零し、ポンポンと頭をなでる。
(なんだよ……年齢あんまり変わらないはずなのに、ガキ扱いされてるような気がするのは俺の気のせいか?)
悔しかったが妙に大人びている彼に敵うはずもなく、ふーっと息を吐く。
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