友達に……そうは言っても自信なんてどこにもない。
部屋に戻った眉村は深い溜息を吐いた。
高校二年の歓迎試合から彼への興味が始まって、ずっとそういう対象としてみてきた。
あの頃も、ずっと吾郎の心には寿也がいてそれを追い払おうとしたが結局できなかった。
今でも付き合っていると聞き動揺を隠し切れない。
高校を卒業後、ブルーオーシャンズに入団。
吾郎もブルーオーシャンズからスカウトされているらしいと聞き、ひょっとしたら今度こそ自分だけのものにできるかもしれない。
なんて甘い考えを抱いていた。
しかし彼はいきなり単身アメリカへ渡った。
驚いたが、寿也との関係も終わらせてから行ったんだと勝手に解釈していた。
アメリカへ行ってしまえば、自分は吾郎に対して邪な感情を持たずに済む。
もう二度と逢うこともないだろう。
そう思っていた。
しかし、いきなり向こうから目の前に現れた。
忘れていた思いが一気に吹き出して、強引に唇を奪ってしまった。
いつも忘れようと努力して、目の前の誘惑に負けてしまう。
そんな自分が吾郎を友達として見れるのだろうか?
そもそも初めから友達だとは思っていないのに、どうすればこの感情を忘れることができるのだろう。
未だに心がざわついている。
吾郎が言うように他に好きな人でも出来れば忘れられるのだろうが、生憎近づいてくる女子アナやファンの女の子達を目の当たりにしてもそんな感情は芽生えて来そうにない。
もう、忘れなくては。
この言葉も高校時代から幾度となく呟いてきた。
それでも抑えられない感情を、どうやって鎮めればいいのだろうか?
「参ったな」
昨日の彼の唇の感触が甦り、自らの手で自分の口元に触れる。
きゅーっと胸を締め付けられるように、苦しくなった。
(この気持ち、当分忘れるのは無理そうだ)
ベッドに倒れ込み、ゆるく息を吐く。
友達に戻れないのなら、いっそとことん嫌われてしまおうか。
もう二度と顔も見たくないと思わせるほどに。
一瞬そう思ったが、ぶるぶると首を振った。
そんな事をしてこれ以上気まずい関係にはなりたくない。
ぐるぐると出口のない悩みに、眉村は一晩中頭を悩ませていた。
吾郎は、そんな眉村の気持ちなんか知る由もなく、友達として普通に接してきた。
それが何よりも苦痛に思え、眉村はだんだんと彼を遠ざけるようになっていった。
ギクシャクした関係のまま、ある日吾郎は京四郎の推薦で若手選抜に入れることになった。
あと1週間もすれば寿也と逢える。
そして、日本代表と試合ができる。
吾郎の関心はもうすっかりそっちの方に移ってしまっていた。
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