いきなり強く引き寄せられ、一瞬何が起こったのかわからずに立ち尽くす。
外の外気の冷たさとは対照的な温もりが眉村から伝わってくる。
抱きしめられている。
そうはっきりと認識した吾郎はどうしていいものか困ってしまう。
「離せよ」
「離したくない」
ハッキリとそう告げた彼の腕に力がこもる。
熱っぽい眼差しを向けられるとどうしていいのかわからなくなってしまう。
「ち、ちょっと待てって、眉村」
今にもキスされそうな勢いに、吾郎は焦って顔を背ける。
それでもゆっくりと近づいてくる気配に吾郎は眉を顰めた。
「ダメだって!」
はっきりと拒絶の色を濃く表す吾郎に、切ない思いが込み上げてくる。
「……佐藤とまだ付き合ってるのか?」
「当たり前じゃねぇか。俺は、もう寿也以外の奴とは何もしねぇの!」
わかったら、離せよ。
つっけんどんにそう言われ、眉村はムッとした。
自分のことは眼中にないと言われ、腹が立った。
抱きしめていた腕にさらに力が入る。
「おい、離せって! 俺の話、聞いてなかったのかよ!!」
「ちゃんと聞いた。だが……」
半ば強引に壁に押し付け、抵抗する腕を押さえつけて無理やり唇を奪う。
「ば、バカ!! 離せっ!」
「離したくない!」
強い口調で言いながら、もう一度唇を奪う。
眉村も相当鍛えているが、吾郎も必死だった。
目の色を変えて迫ってくる相手のペースに乗せられて堪るかとドッと彼の腹に蹴りを食らわせ、手を離したところでジャージの袖で口を拭う。
「本当は、お前に蹴りなんか食らわしたくなかったけど嫌だって言ってんだろ!? 頭冷やせよバーカ!!」
そういい捨て、蹲っている眉村を置いて走って自分の与えられた部屋に戻った。
バタンッと勢いよくドアを閉め、ズルズルとその場に座り込む。
「眉村の馬鹿野郎」
あんなに彼を恐ろしいと思ったのは初めてで、未だに身体が震えていた。
「嫌だって言ったのに」
今まで一度もあんな強引なやり方で唇を奪われた事はなかった。
噛みつく様な口付けは眉村の気持ちの表れだったのだろうか。
もう眉村とはとっくに終わっている。
自分の中でそう思っていただけに動揺を隠しきれない。
膝を抱え、薄暗い部屋のドアの前ではぁっと重いため息をついた。
代表合宿の一日目は最悪な形で終わろうとしていた。
明日から、彼にどんな表情をして逢えばいいのか。
まさか合宿中ずっと眉村から逃げ回るわけにもいかず、何度も何度もため息をついた。
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