清水の言葉に、そこで初めて彼女を女だと意識しだした吾郎。
だがそれまで男臭い世界で生きてきた彼には女の子と付き合うという事がいまいちピンと来なかった。
(そろそろまともな恋愛を……か)
ふと大河の言葉を思い出し、その言葉と清水の姿が頭の中をぐるぐると回る。
自分は寿也が好きだし、悩む必要もないのだが大河の言葉がどうしても引っかかってしまう。
(この間の埋め合わせもまだだったしな……)
一度普通のデートとやらをやってみれば普通の恋愛がどんなものなのかわかるかもしれない。
ふと、そんなことを考えた。
携帯をギュッと握りしめ、吾郎は清水に電話をかけた。
デート当日、清水と一緒に向った先は水族館と遊園地が一つになった複合レジャー施設だった。
遊園地で思いっきり遊び、昼食は清水の手作り弁当。
その後水族館へと移動した。
二人で過ごした時間は確かに楽しかった。
しかし、吾郎の中ではやはり何かが違うと思い始めていた。
寿也とまともにデートすらした事はないが、彼とだったらどんな反応をしただろうか?
ふとした瞬間に寿也を思い出す。
(やっぱ、駄目だな……俺)
夕暮れの湖を眺めながらそっと息を吐く。
そんな吾郎の様子を清水は黙って視界の端に捉えていた。
湖を眺めながら、自分の思いを吐き出す。
[もし、野球以外の恋人が欲しくなったら、いつでも言えよ! あたしがその時フリーだったら付き合ってやってもいいからさ」
清水なりの気の使い方なのだろう。
女の子にそんな事を言わせてしまった自分に少々胸が痛む。
だが、やはり清水と付き合う事は出来ない。
清水とはこれからもいい友達でいたい。
酷な事を言っているのはわかっていたが、他に言葉も見つからず[あぁ、そうする」とだけ答えそのまま並んで家路に着いた。
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