「心ここにあらずだな。そんなに日本に残してきた恋人が気になるのか?」
行為後、肩で荒い息をしている彼の背中越しに、キーンはため息交じりで尋ねた。
「……」
「そんなに、気になるなら連絡の一つでもすればいいじゃないか」
「荷物取られちまって、連絡する手立てがねぇんだよ」
呆れ顔のキーンに、吾郎は重く息を吐く。
「さっきも、そいつの事を考えていたのだろう?」
そう言われ、ギクッとした。
何も言えず俯いていると彼はさらに言葉を紡ぐ。
「気がついていないとでも思っていたのか。ゴローの顔を見ればなにを考えているのか大体の見当はつく」
「悪い。やっぱ俺……忘れることなんて出来ねぇよ」
毛布に包り項垂れる。
キーンは自分が寿也の事を好きだと言う事も忘れる事が出来ないと言う事も理解している。
その上でも尚、こうやって自分の相手をしてくれる彼の気持ちが心苦しかった。
「なぁ、他の奴に気持ちが向いてるのって嫌じゃねぇ? わかってんのに何で俺と付き合うんだよ」
「そうだな……嫌じゃないと言えば嘘になるが、日本に恋人がいると聞いたときから覚悟はしていたからな」
「そっか……」
「それに、割り切っていれば何も問題もない。誰を想うかは、本人にしかわからないことだから」
キーンは、吾郎が寂しくなると自分に縋るように求めてくることも気がついていた。
初めて気がついた頃は、戸惑いもあったが割り切ってしまえばもう何も感じることもなく、落ち着いていられる。
「悪いな、キーン。 俺、お前に甘えちまってる……本当に俺でいいのかよ。キーンならいくらでも……」
「しつこいぞ。俺は、お前だからいいんだ。他の誰かなんて考えられない……お前が誰を思っていても構わない。俺がお前を好きになったのは事実だからな」
「ハハッ、そっか」
真剣な眼差しで見つめられくすぐったいような恥ずかしいような気持になる。
照れくささを隠すように毛布に顔を埋めた吾郎をキーンはそっと引き寄せた。
「もう、夜も遅い。早く寝ないと明日に響くぞ」
「まだ眠くないっての! ガキ扱いすんな」
「俺が眠いんだ」
そう言って、吾郎の隣に横になるとスッと吾郎の頭を引き寄せふわっと抱き寄せる。
「おい、腕枕は別にいいって。明日腕がしびれたりしたら試合に影響出るし」
「気にするな。俺がしたいだけだから」
落ち着いた声で、言われドキドキしながらウトウトしている彼を見る。
「……サンキュゥ、キーン」
そっとおでこに口付けて、キーンの寝顔を眺めながらいつの間にか吾郎も眠りについていった。
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