「なんだよ、笑うとこじゃねぇだろ」
「ハハッ、すまん」
大きな手でクシャクシャッと頭を撫でられ、吾郎は口を尖らせた。
「またガキ扱いしやがって……」
「なんか言ったか?」
「別に。なんでもねぇよ」
すっかり不貞腐れ、背を向けてしまった吾郎にキーンは苦笑するしか無く、短い息を吐くとそっと後ろから抱き締めた。
「そんなに怒るな。俺の態度が気に障ったのなら謝る」
「!」
耳の直ぐ側で声がして、嫌が応にも鼓動が速くなってゆく。
「キーンここ人が……」
「気にするな。皆レジャーを楽しんでいて俺達の事なんか誰も気に留めるものはいない」
グイッと顎を持ち上げられ彫りの深い顔が間近に迫る。
気にするなと言われてもここは往来の激しいビーチの中。
男同士で抱き合っていたら嫌でも目立つはず。
誰かに見られるかもしれない。
そう思うと余計に緊張してしまう。
そんな事お構いなしにキーンの指先が唇をなぞりゆっくりと顔が近づいてくる。
「……っ、お、俺もうひと泳ぎしてくるわ!」
緊張に耐えられなくなった吾郎は、咄嗟に顎を引きキーンの手から逃れるように海の方へと走り出した。
邪念を振り払うように海に勢いよく入ってゆく吾郎を眺め、キーンは面白いやつだ、と肩を震わせた。
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