寿也たちが甲子園行きを手にして数日後、退院して家に戻っていた吾郎に電話があった。
「はい、もしもーし」
面倒くさそうに松葉杖をついて電話に出ると、それは田代だった。
「あんだよ。なんか用か?」
『喜べ茂野! お前の退院祝いを兼ねて甲子園見に行けることになったぞ!!』
「……へ?」
田代の言っている意味がわからず、思わず間抜けな声が洩れる。。
よく聞いてみると、今回の大会の頑張った褒美&退院祝いとして監督の山田一郎が学校に掛け合って急遽旅行が決定したらしい。
3泊4日の日程で甲子園見学に行ける。
そう聞いて、少し嬉しくなった。
甲子園にいけば、寿也や眉村の戦っている姿も見れるしひょっとしたら会えるかもしれない。
そんなことを考え心が躍った。
まだ松葉杖の生活だし、未だにギプスもついていたが、この際そんなことはどうでもよかった。
吾郎は寿也に連絡を入れようか迷った。
携帯のディスプレイを見ながら、彼の宿泊しているホテルの番号と見比べる。
しばらく悩んでいたがいきなり行って驚く二人の顔を見てみたいと思い、携帯をベッドに放り投げた。
「きっとアイツら驚くぞー」
カレンダーに印をつけて、楽しそうに微笑む。
「えらく浮かれてるな?」
後ろから声をかけられ、ドキリとした。
すぐ後ろに英毅がいて、緩んでいた顔が一気に引き締まる。
「別に、なんでもねぇよ」
「……そうか」
無意識に視線を逸らす。
それを英毅は黙ってみていた。
英毅には以前カミングアウトしていたことがあり、それ以来何となく気まずい関係のままだ。
別に理解して貰いたいとか、認めて欲しいと思っているわけでは無かったが、腫物のように扱われるのは気が滅入る。
「あら、どうしたの二人とも」
気まずい空気をどうしようかと悩んでいると何も知らない桃子が買い物から戻ってきた。
真吾とちはるが入って来たので重く圧し掛かっていた空気が一気に緩みリビングに平和な日常が戻ってくる。
「なんでもねぇ。あ、そうそう母さん急で悪りぃんだけど、野球部みんなで甲子園行くことになったからさ準備頼む」
「えっ? ちょっと、そんな急に……」
これ以上英毅との気まずい空気を桃子に知られたくなくて、伝える事だけ伝えて吾郎は部屋に戻って行った。
モドル/ススム