桃子を心配させてはいけないからと、寿也に無理にせかされて電話をかけ、彼が泊まることを告げる。
桃子の了承も得て、二人で手を繋ぎながら吾郎の家へと歩いてゆく。
吾郎も寿也もお互いの緊張が伝わり、恥ずかしそうに笑いあってゆっくりとしたペースで歩みを進めた。
玄関を開けると、偶然英毅と目が合い吾郎は一瞬戸惑ってしまった。
繋いだ手を瞬時に離し嫌な空気の中を通り過ぎる。
「お邪魔します」
ぺこりと挨拶をする彼を、英毅は黙って見つめていた。
夕食を食べ、吾郎は部屋でゲームをしていた。
今、寿也は入浴中だ。
(やっべー、なんかすっげードキドキしてる)
久しぶりに逢えたせいだろうか、彼は緊張で手にじっとりと汗をかいていた。
無機質に画面を見ながらコントローラーを操作していると、ガチャッと部屋のドアが開いて寿也が上がってきた。
「お風呂、ありがとう。吾郎君も入ってきたら?」
「お、おう……そうする」
視線を合わせずに、階下へ向かう吾郎に寿也は首をかしげた。
吾郎が風呂に行ったのと入れ替わりで桃子がお客様用の布団を持ってきてくれた。
それを受け取り寝る準備を一通り終えてから改めて部屋を見渡すと、机の上に自分の送ったボールと、リストバンドがきちんと並べて置いてあるのを見つけた。
吾郎が自分の贈ったものを大切にしてくれているのだとわかって嬉しい気持ちになる。
ウォリアーズのキャンプインは2月。
一緒にいられる時間もあと2ヶ月しかない。
そう思うと、ふと寂しさがこみ上げる。
本当は未だに向こうへ言って欲しくなかったが、行くなといって困らせるわけにはいかない。
思案に暮れ、はぁと深いため息をついているといきなり後ろから腕を回されてドキリとした。
「考え事か? 寿……」
肩に彼の顎が乗っている。
「大丈夫。なんでもないよ」
「そっか、ならいいんだ」
お互いに黙ったまま。そのままの体勢で静かな時が流れる。
「なぁ、寿」
ふいに吾郎が口を開いた。
「前に俺にお前のどこが好きかって聞いたよな……」
「うん」
「俺……、寿也の全部が好きだ」
「えっ?」
いきなりの彼の告白に寿也は目を丸くする。
「これだけはアメリカ行くまでにどうしても言っておかなくちゃいけないような気がしてさ……」
照れくさそうに頬をかく。
「吾郎君……僕も、君の全てが好きだよ」
彼の腕に自分の腕を絡ませてそっと口付ける。
愛しいその唇を何度も何度も口付けて見詰め合った。
「あっち行く?」
寿也がベッドを顎でさすと、吾郎はほんのり頬を染めてコクリと頷いた。
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