「寿!」
「会いたかった。吾郎君」
「俺もすげぇ会いたかった」
お互いの視線が絡み合って目が離せずにしばし見つめ合う。
どちらかとも無く目を瞑り、熱い口付けを交わした。
それはとても長い時間で、すっかり二人だけの世界を作っていた。
うっとりとお互いを見つめ離れては再び口付ける。
「俺……魔法にでもかかっちまったかと思った」
「僕がいたから?」
「当たり前だろ? ずっと、会いたくってしかたなかったし」
「僕もだよ。君の声が聞きたくて、今日もなんだか呼ばれたような気がして、ここに来たんだ」
土手に座り、ふわりと肩を抱かれ彼に凭れながらの会話はとても心地よく思えて、時間が経つのも忘れそうになる。
ふと、桃子からの着信が鳴り響いた。これが鳴ったら帰らなければいけない。
それはわかっていた。
けれど、今は気付かないふりをしたかった。
そうすれば、もう少し彼と一緒にいられるから。
「電話、出なくていいの?」
「いい。……もう少し寿の側にいたい。帰りたくねぇよ」
ぷつっ切れた電話に、寿也があっと小さな声を上げた。
吾郎は、思い切って携帯の電源をOFFにしてポケットの中にしまい込む。
「吾郎君……気持ちは嬉しいけど、きっとお母さん心配してるよ?」
「いいんだよ」
「でも、困らせちゃダメだよ。吾郎君」
諭すように言われ、帰れと言われたようで、寂しくなる。
「寿也は俺と一緒にいるのそんなにイヤなのか?」
「嫌なわけないじゃないか。……でも、家族は大切にしなきゃ」
「わかってるよ。でも……」
離れたくない。今度いつ会えるかもわからないから。
そんな様子を見て、寿也は困惑していた。
側にいたいと言われれば、尚更離れがたくなる。
自分も同じ気持ちだから。
「それじゃぁさ、今夜、君のうちへ泊まってもいいかな?」
吾郎は、返事の変わりに黙って頷いた。
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