「吾郎君案外抜けてるところあるからなぁ……」
「ぜってぇ有り得ねぇ。大丈夫だから」
互いに微笑み視線が絡む。
幾度となく唇を重ね甘い時間を堪能する。
その時、眉村からの着信を知らせるバイブが鳴り響き吾郎は「アッ」と小さく声を上げた。
チラリと、寿也を見て躊躇いながらも電話に出る。
「も、もしもーし……」
『あぁ、茂野か。悪いが佐藤が見つからないんだ』
「ぁあ、その件はもう解決したから気にすんな」
『何!?』
それはどういう事かと尋ねようとした時、電話の奥で寿也の声が聞こえてきた。
どうやら、誰からかかって来たのか確認しているらしい。
(なんだ……俺が気にする必要もなかったのか)
眉村は深い溜息を吐いて、電話を切った。
「……はぁ」
自然と気分が重くなり幾度となく溜息が洩れる。
「よぉ、どうかしたのか浮かない顔して」
不意にポンと肩を叩かれ、視線だけをそちらに向ける。
「薬師寺……なんでもない。気にするな」
「気にするなって……。あ、そうだ! 佐藤知らねぇか? この時間ならいつもの道をジョギングしてると思ったんだが」
寿也の名前が出て、眉村の肩がピクリと動く。
「佐藤なら部屋にいるんじゃないのか。 俺は知らん」
「そっか、オッケー。じゃぁ部屋に行ってみるよ」
軽く手を振って寿也の部屋へ向かう薬師寺の姿を見て、眉村はほくそ笑んだ。
(薬師寺が部屋に行ってうろたえる佐藤の姿が目に浮かぶようだ……)
逃げ場のない状況で部屋には吾郎。
一体どういう言い訳をするつもりなのか。
想像すると可笑しくて堪らない。
眉村は一人失笑し自分の部屋へと戻って行った。
前/オワリ