海堂編

LoveSick


自分の気持ちを落ち着かせるために彼と距離を置いていてのだが、そのことが吾郎を苦しませているとは思っていなかった。

だいぶ自分の気持ちの整理もできたのでそろそろ吾郎に電話を入れてみようかと考えていたところだった。

それなのに彼のほうから飛び込んできたので実際はかなり動揺していた。

「なんで、答えてくれないんだよ! 寿」

「吾郎君」

「嫌いなら、嫌いってハッキリ言えよ」

そのほうが、気持ちも楽になるのに……。

返事がないというのはとても酷なことだ。

嫌いといわれれば諦めもつく。

何か言って欲しくて、縋るような目で彼を見る。

「バカだね、君は」

寿也は視線を落とし呟いた。

(僕が君を嫌いになるなんて有り得ないのに)

好きだから、アメリカ行きに反対してるだけなのになんで『嫌いになった』という答えが出てくるのか。

その突飛な考えに深いため息をつく。

「なんで俺がバカなんだよ」

「バカだよ。だって、僕の気持ち全然わかってないじゃないか」

「寿也の……気持ち?」

「そう。僕の気持ち、考えたことあるかい?」

全然わかってないよ。

うめくようなその言葉に、唖然とした。

確かに、自分のことばかり考えていて寿也の気持ちなど考えていなかったかもしれない。

「ごめん。寿」

しゅんとなった彼の横へ座りなおし、そっと肩を抱く。

「僕は、君を嫌いになったりしない」

例え君がどこの世界にいたってこの想いは変わらない。

そう言われ、頬に涙が伝う。

「おかしいな。悲しくないのに……」

嬉しいはずなのに、涙が止まらない。

そんな顔見せたくなくて吾郎は腕で顔を隠した。

「顔、あげてよ」

「ぜってぇヤだ。俺、今すっげぇ情けない面してる」

「情けなくなんか、ないよ」

顔を覆っていた腕を外され、額が触れ合うほど近くに寄せられる。

鼻と鼻がくっつき、視線が絡まる。

「君を苦しませるつもりはなかったんだ。ごめん」

「寿也のせいじゃねぇ。俺が……」

顔を上げると肩を抱いていた腕が急に離され、頬を捉える。

息がかかるほど近くに寿也の顔があった。

「っ……寿……」

堪らず自ら腕を伸ばし背中に絡め、瞳を閉じて唇を重ねた。


/ススム



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