寮の前に辿り着くと、まだ誰もおらず監視員の姿もなかった。
ちょっと早く来すぎた事を少し後悔したが、寿也に逢いたい思いは変わらず、いてもたってもいられなかった。
はぁっと息を吐くと白く舞い上がり霜月らしく道路や植物などに霜が降りていた。
眉村はもう起きているだろうか?
電話してみようか?
などと考えていると、突然後ろから声がした。
「吾郎……君?」
懐かしいその声に恐る恐る振り向くと、たった今、グラウンドでも走ってきたのだろうか、今一番会いたかった人物が立っていた。
突然現れた相手に吾郎は、考えていたセリフを全て忘れてしまっていた。
考えるより先に、身体が勝手に動いて吾郎は寿也に飛びついた。
いきなり飛びつかれて、寿也は目を丸くし困惑した。
いくら早朝とはいえ、ココは寮の玄関前。
誰がいつ起きて出てくるかもわからない状況にあって、パッとその身体を引き離す。
引き離されてショックを受けている彼の左手を掴みこっそりと寮内へ入ると、急いで自分の部屋に吾郎を押し込んだ。
その後誰も見ていないことを確認し、ドアに鍵をかける。
「どうして、来たんだい?」
下を向いて、すっかり落ち込んでいる様子の彼をなだめるようにベッドに座らせて、自分は勉強椅子に座る。
一軍寮は各自一人部屋が設けられていて、寿也はこれが二人部屋でなくてよかった、と安堵した。
彼は黙ったまま答えようとしない。
大方の予想はついているが、あまり自分から切り出したい話ではなかった。
しばらく重い沈黙が続く。
「寿は……」
ポツリと吾郎が口を開いた。
なんと言ったのか聞こえなくて、その顔を覗きこむ。
「俺のこと嫌いになったのか?」
両手に置いた手で拳を作り、搾り出すような声で尋ねる。
唇が微かに震えており、緊張しているのがわかる。
寿也は答えなかった。
というより、なんと言おうか迷って答えられなかった。
嫌いになどなるわけがない。
確かに自分よりアメリカ行きを選んで腹も立っているが、一週間の間に色々考えた。
彼の父を殺めたギブソンと戦いたいその気持ちわからなくもない。
ただ、もしかしたら再びバッテリーが組める日が来るかもしれないその近い将来を楽しみにしていた寿也にとっては受け入れたくない事実でもあった。
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