眉村に抱かれている間も、吾郎の頭の中には寿也がいた。
この胸の苦しさを抱いてもらえば忘れられるかもしれない。
そう思って、眉村に助けを求めた。
けれど全てを忘れることができずに余計に苦しくなった。
身体は、刺激に反応し快楽を求めるように勝手に動いてはいるものの、心は凍てついたままで、寂しさが拭いきれず胸を締め付ける。
「……そんな顔するな」
今日何度目かの眉村の言葉。
虚ろな瞳で見上げれば切なげな表情をしてこちらを見ている。
一体どうしたら、この気持ちを忘れられるのか?
寿也に冷たく突き放され、拒絶されているもどかしさはずっと離れることがない。
「健……もっと激しくしてくれよ……いいからっ」
壊れるくらい抱かれてしまえば消えてくれるだろうか? そんな思いに駆られる。
忘れたい。忘れさせて欲しい。
しかし胸の痛みは快楽と比例して強くなってゆくばかり。
衣擦れの音と、互いの息遣いだけが妖艶に響く。
「あっ……あっ……ぁあっ……寿……っ!!」
果てる寸前、自然に口をついて出た言葉に気がついて慌てて手で口を覆う。
それと同時に、眉村の動きも止まり辺りは再び静寂に包まれる。
「わ、わりっ……俺……」
一気に互いの熱が引いてゆくのがわかり、吾郎は狼狽した。
けれど、違う相手の名前を呼んでしまった事実には変わりなく重たい空気が流れる。
眉村は、ふーっと息を吐き、脱いだ自分の衣類に袖を通す。
「気にしなくていい……と言ってやりたいが……」
眉村が重々しく口を開く。
吾郎は彼の顔が見れないでいた。
一時期は二番目でもいいと割り切っていたはずの眉村だったが、やはり自分だけを見て欲しいと願ってしまう。
このままでは、寿也への嫉妬で彼を傷つけてしまうかもしれない。
忘れさせてやるどころか、恋人の影を追われていては、どうすることもできない。
「……会いに行けよ。佐藤に」
「会えないから……困ってんだろ」
「明日、俺がアイツを引き止めといてやるから、ちゃんと話をしろ」
もう一度、深いため息をついて立ち上がる。
「じゃぁ俺は戻るから」
明日寮にちゃんと来いよ。
そういい残して、彼は部屋から出て行った。
「あー……俺って、最低……」
一人残された吾郎は、頭を抱えてうなだれた。
寿也への思いを忘れようとして、結局忘れられず眉村までも傷つけてしまった。
「何やってんだろうな、俺」
ゆるゆると床に散らばった服をかき集め、袖を通す。
明日寮に来い。そう眉村は言った。
寿也と話をつけろと。
きちんと自分の思いは伝えられるだろうか。
アメリカへ行っても自分の気持ちが変わらないこと、彼は理解してくれるのか?
言いようのない不安が募る。
けれど、このままの状態ではアメリカへ行くことはできない。
きちんと話をしなければ。
すべては明日、顔をあわせてから。
ベッドに横になり、眠れぬ夜を過ごす。
結局一睡もすることなく、朝日が昇る前に吾郎は一軍寮へと向かっていった。
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