「とりあえず、入れよ」
「でも、迷惑だろ? こんな夜遅くに」
「大丈夫だって。俺が一緒にいたいって言ってんだよ。嫌なのか?」
そう尋ねられて、ぶるぶると首をふる。
嫌なわけなかった。
もう家族は寝静まった後なのか、家中の電気は消えており、薄暗かった。
「自転車、こっちに置けよ」
吾郎に促されるまま自転車を隠し靴を持って部屋に入る。
なんだかこそこそして悪いことをしているような気分だった。
吾郎は両親の部屋からいびきが聞こえてくるのを確認して、ドアを閉め鍵をかけた。
辺りはシン……としていて、ベッド脇のスタンドの明かりのみが虚ろに光っている。
「まさか来てくれるなんて思ってなかったから、すっげぇ嬉しい」
笑顔ではあるもののやはりどことなく寂しそうだ。
「佐藤と何かあったのか?」
答えはなかったものの、表情が強張り肩がピクリと動く。
「喧嘩か」
顔を覗きこむと、急にはじかれたように抱きついてきた。
その拍子にバランスを失い床に倒れる。
自分の胸の上にいる吾郎はとても悲しそうな表情をしていた。
いつもの覇気はなく、ひどく落ち込んでいる様子がうかがえる。
原因が何かはわからないが、助けを求められているようなそんな気がした。
そっと頬に触れてみる。
眉を寄せ、今にも泣き出しそうな瞳で見つめている。
「そんな顔、するな」
抱きしめる腕に思わず力が入る。
「ああ、悪りぃ」
「今だけでもいいから……佐藤のことは忘れろ」
そう言うと吾郎の顔がさらに曇る。
なんで、そんな顔するんだ。
お前にそんな顔似合わない。
いつも太陽みたいにまぶしくて、うっとうしいくらいの明るい吾郎が好きなのに。
寿也の事でそんな顔して欲しくない。
そんな辛いのなら忘れてしまえばいい。
俯いて、何も言わなくなった相手にそっと口付けて全身の勢いをついけて形勢を逆転させる。
床に組み敷かれた相手はただジッと瞳を閉じて、抵抗するそぶりも見せずすんなりと唇を受け入れた。
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