海堂編

LoveSick


あれから1週間寿也からの連絡は途絶え、家に行っても会えない日々が続く。

「なんだよ寿の野郎、そんな怒らなくってもいいのに……」

すっかり肌寒くなって秋も深まる堤防沿いの土手に腰を降ろして、深いため息をつく。

なんとかして、アメリカに行く前に寿也だけには理解してもらいたかった。

夕暮れになっても動くことができずに、ずっと川面を眺めては溜息を吐き、その辺の石を投げ込んだ。

石は彼の心を表すかのように、ポチャンと虚しい音を立てて沈んでいく。

「寿の馬鹿野郎……」

膝を抱え俯くと、寂しくてたまらなかった。

すっかり、辺りも暗くなりゆっくりと立ち上がる。

「あーあ。帰ろ」

憂鬱な気分で自転車に跨ると重い足取りで家に戻った。


家に帰ると、珍しく家族がそろっていた。

「ママー、吾郎兄ちゃん帰ってきたよ」

弟の真吾が嬉しそうに、飛び跳ねる。

何かいいことでもあったのかと、リビングに足を運んだ。

テーブルには大きなケーキやご馳走が並んでいて、吾郎は首を傾げた。

「すっげぇ豪華だなぁ。今日はなんかの祝いの日か?」

「何言ってるの。今日は吾郎の誕生日でしょ?」

桃子の言葉にハッと顔を上げる。

そういえばそうだった。

せっかく祝ってくれるのは嬉しいけれど、とても心の底から楽しめる気分ではなかった。

もともとそんなイベントには大して興味もなかったし、祝ってもらう年齢でもない。

桃子は今年が最後になるかも知れないから。

と少し寂しそうに笑った。

ひとしきり祝ってもらった後、部屋に戻った吾郎は机に目をやった。

そこにはあのときのボールと、去年の誕生日に貰ったリストバンドが並べておいてある。

寿也には、毎年色んなものを貰っていた。

おととしは、素敵な思い出を、去年はリストバンド。

でも今年は……。

別にプレゼントが欲しいわけではない。

せめて、今日くらい声が聞きたかった。

けれど何度電話を入れても電源が切られており、繋がらない。

完全に自分と距離を置くつもりなのか。

そう考えると寂しくて、悲しくて胸が締め付けられる思いがした。

誰でもいいから側にいて欲しかった。

側にいて抱きしめて欲しい。

この胸の苦しさを忘れさせて欲しかった。

ふと、手に取った携帯のディスプレイに眉村の番号が浮かぶ。

「眉村……か」

暫くその番号を眺めていたが、思い切って通話ボタンを押した。


/ススム



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