「綾音ちゃんとは……その後どう?」
部屋に着くなり寿也がいきなり切り出してきたので、吾郎は危うくジュースを噴き出しそうになった。
「心配すんなよ。その事ならもう解決したから」
実際は避けられていて、あのときの状態のまま続いていたのだが寿也を心配させないためにもあえて、そう言った。
「吾郎君は、辛い目にあったりしてない?」
「してねぇよ。それに辛くっても寿がいてくれるから、俺は平気」
彼の肩に凭れかかり、少しだけ甘えてみる。
「吾郎君。そんな可愛い顔されると、僕困るんだけど」
「どこが可愛いんだよ」
少し頬を染めていう彼に、ガバッと起き上がり抗議する。
「全部」
「はぁ?」
ぎゅっと抱きしめられ、目が丸くなった。
180cmもある男が可愛いなどと、やっぱり目が悪いとしか思えない。
「吾郎君の全てが、可愛いんだよ」
耳元で言われて、自然に頬が赤くなる。
「ってか、そんな恥ずかしいこと言うなって」
「本当の事だよ」
こんなセリフ、他の奴に言われても気持ちが悪いと思うのだろうが嬉しく思えるのは惚れた弱みという奴だろうか?
ドキドキしながら彼の顔を見ると、耳元で「大好きだよ」と囁かれる。
彼の声はどこまでも甘くて、聞いているだけでゾクゾクしてしまう。
上遣いで見上げると、そっと唇を塞がれる。
「今日は、おばあちゃんたちがいるからガマンしようと思ってたのに……」
そう呟くと、ガバッといきなり押し倒してきた。
「お、おい! 俺、そんなつもりじゃ……んっ」
最後まで言葉を紡ぐ前に、口を塞がれ抵抗するのを押さえつけられる。
性急に求められ、久しぶりに触れ合うということもあり結局吾郎は受け入れてしまう。
「吾郎君、絶対に声出しちゃだめだよ」
「そんな……っ俺、自信ねぇよ」
口を押さえて極力声が出ないように押さえているものの、少しでも気を緩めれば声が洩れそうになり、必死に耐える。
吾郎の中で彼が動けば動くほど蕩けるような感覚に溺れそうになる。
「んっ……はぁ……ぁ……ぁっ」
とうとう、耐えれなくって次から次へと声が洩れた。
衣擦れの音がやけに耳に残る。
二人同時に果てて、行為後の脱力感に浸っていると、夕方を示す音楽がちょうど聞こえてきた。
「俺、もう帰るな」
急いで服を着て、身支度を整えると彼の家を後にした。
この後、誰もいない自宅で偶然テレビに出ていたギブソンの言葉で、自分の人生の選択を迫られようとはこのときはまだ知る由もなかった。
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