寿也は、黙って次の言葉を待っている。
一呼吸置いてから、目線を布団に落とし吾郎は少しずつ話し始めた。
「俺に距離を置こうって言った日の事覚えてるか?」
恐る恐る尋ねる相手に黙って頷く。
言ってしまって何度も後悔した言葉。
忘れられるはずがない。
「あれから俺も色々考えてさ、自分なりに気持ちの整理してみたんだよ。この大会が終われば俺達は前みたいな関係に戻れるんだよ、な? 俺はこの半年間寿也への気持ちを忘れようって努力してきた……でもやっぱ、そう簡単に忘れられねぇ。俺は今でもお前の事が好きだし、側に居たいって思ってる……」
一度顔を上げ、すぐにまた視線を布団に移す。
二人の間に、しばしの沈黙が訪れる。
寿也は何も答えない。
その沈黙が吾郎の質問の答えのような気がして胸が痛んだ。
「どう、して……」
黙って聞いていた寿也が口を開く。その声は小さく、膝の上に置いた拳はわずかに震えていた。
バッと顔を上げ吾郎を見つめる。
「どうして、今そんな事言うのさ」
「え?」
予想だにしない寿也の反応に吾郎は驚く。
「そんな事……今、言われても困るよ」
眉をひそめ、俯く姿に吾郎は目を丸くした。
やはり迷惑だったのだろうか?
連絡が取れなかったのは自分のことを嫌いになったからだったのか。
そんな想いに囚われて、鼻の奥がツンと痛む。
「悪りぃ、やっぱ迷惑だよな」
悲しげにそう呟いた彼に今度は寿也が顔を上げた。
「違う! 迷惑なんかじゃ……ただ……っ」
寿也は言葉に詰まった。
本当はとても嬉しかった。
自分の側に居たいと言われ、今すぐにでも抱きしめたかった。
けれど、それは出来ない。
一度彼に触れてしまうと、歯止めが効かなくなりそうで怖い。
きっと彼のことで頭がいっぱいになってしまう。そんな予感がした。
海堂高校の主将としてチームを引っ張って甲子園に連れて行く義務がある。
だからこそ、彼への気持ちは大会が終了するまで秘めておこうと決めていたのに……。
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