海堂編

LoveSick


盛り上がる試合展開の中、吾郎は暑さと夕べの疲れが押し寄せてきて、ついウトウトしていた。

「あっ、危ない! 茂野!!」

「!?」

どのくらい眠っていたのか、みんなの声で目が覚めた。

顔を上げたとほぼ同時に目の前にボールが飛び込んできてガツンと頭に直撃し、手元に落ちる。

「痛ってぇ!?」

吾郎は軽い脳震盪を起し、目がチカチカした。

何が起きたかよくわからず手にしたボールに視線を落とす。

会場は沸き立っており、グラウンドには悠々とホームベースを踏む幼馴染の姿があった。

「おいっ!今 これ打ったの誰だ!?」

「佐藤だよ。ほら、お前の友達の。アイツ、やっぱただモンじゃねぇ」

感心しきりの田代。

吾郎は信じられない気持ちでもう一度ボールに視線を移した。

本当に……飛んできた!?

未だに信じられず、目をパチパチさせる。

なんだか魔法にでもかけられたようなそんな気持ちだった。

(やっぱすげぇわ。寿)

改めて彼の才能を実感しボールを握り締める。

「おい、茂野そのボール、彼女にあげたらどうなんだ?」

田代が肘で小突きながら横目で彩音に目配せする。

チラッと後ろを見れば、彩音と目が合った。

彼女も寿也のことが好きなのだ。

やはり彼が打ったボールは欲しいと思う。

もう少し後ろに飛んでいれば、彼女のボールになっていたかもしれない。

もし、これが普通の寿也が打ったボールなら渡してやってもよかったが、このボールだけは譲れなかった。

自分のために打ってくれたボールだから。

尚更渡すわけにはいかなかった。

「だめだ。これだけは渡せねぇ」

低い声で呟き、ぎゅっとボールを握り締める。

そんな姿を田代は不思議そうに見つめていた。

結局、彼のホームランが決勝点となり試合も海堂高校の圧勝で幕を閉じた。

「いやー、やっぱ強ぇな。海堂は」

「文句なしの試合だったよね」

帰りの車の中でもその話で持ちきりだった。

興奮気味なメンバー達の会話を吾郎はうつらうつらしながら聞いていた。

そのうち、明日の自由行動の話になり別の話題で盛り上がり始める。

「おい、茂野もどっか遊びに行こうぜ」

藤井が誘ってくれたが、今はとにかく眠たくて早く横になりたかった。

「あー、俺こんな足だし、明日はゆっくり部屋に居る。お前らだけででたのしんで来いよ」

「なんだよ、つれない奴だな」

みんなに色々言われたが半分以上は耳に届いていなかった。

意識は半分以上眠っていて、部屋に着くなりベッドに倒れ込む。

そのまま、吸い込まれるように眠ってしまった。


/ススム



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