「開いてるぜ」
気だるい身体を起し何気なく開いたドアに目をやって、吾郎は思わず息を詰め目をぱちくりさせた。
立っていたのは、学ランに身を包み肩から野球のバックを提げた寿也だった。
「と、寿!? お前、なんで!?」
吾郎は一瞬自分の逢いたいという想いが幻でも呼び寄せたのかと思い自分の頬をつねる。
痛かった。
そんな彼の様子を見て、寿也がくすくす笑う。
夢じゃない。そうはっきり認識して、嬉しさがこみ上げてきた。
「あの後、心配になって家に電話したらココに入院したって聞いて……疲れてるのにごめん」
心配そうな表情を見せる彼に吾郎はぶるぶると首を振る。
疲れなんて、彼の顔を見たとたんにどこかへ吹っ飛んでいってしまった。
寿也は、ゆっくりとベッド脇のパイプ椅子に腰掛ける。
「足の具合、どう?」
視線を吊り上げられた右足に移し、眉根をよせて心配そうに尋ねれば、吾郎はその心配を打ち消すように笑いながらギプスを軽く叩く。
「こんなの全然平気だって。痛くも痒くもねぇよ」
「ごめん。吾郎君」
「あ?」
「知らなかったとはいえ、アイツの言いなりになって君を傷つけて……」
下を向いて今にも泣き出しそうな声で言われ、吾郎は頬を掻いて寿也の肩に手をやった。
「お前らのせいじゃねぇよ。俺は自分の意思でマウンドに上がったんだ」
「でも」
「だから大丈夫だって。あと半年我慢すりゃ、元に戻るって言われてんだから」
「本当!?」
吾郎の言葉に弾かれたように顔を上げる。瞳は少し潤んでいるように見えて吾郎はドキッとした。
「おいおい、泣くなよ寿」
「だって、もうこのまま吾郎君が野球できなくなるんじゃないかって、心配で心配で……」
「ばーか、例え医者に野球できねぇって言われても、俺はぜってぇ何とかして復活するだけだ。そんな心配は無用だぜ」
力強い彼の言葉に、寿也は安堵した。
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