そして、バツが悪そうに俯くと静かに答える。
「実は、お前が言っていた物は用意できなかったんだ」
「?」
突然の話題に克哉は目を瞬かせた。
何故ここでチョコレートの話が出てくるのかと首を傾げる。
カレーとチョコ。一件なんの関連も無いように思えるのだが……?
「カレーに混ぜると味がマイルドになると聞いた事があったからそれで……」
「このカレーはチョコ入りですか」
克哉の問いに、御堂はコクリと頷く。
中々考えたなと、克哉は思った。
別にバレンタインなどに興味は無く、ちょっとした冗談のつもりでチョコレートの話をしたのだが、御堂が生真面目な性格だという事をすっかり忘れていた。
まさか真に受けて本当に買いに行っていたなんて思わなかった。
チョコ専用ブースで悶々としている御堂の姿を想像すると、不謹慎だが笑えてしまう。
「この時期に買うのは勇気が居るんだからな」
「はいはい。確かに貴重ですね……思いがけず御堂さんの手料理も食べれたわけだし。一石二鳥だ」
そう言うと、御堂は面食らった顔をした。
カァッと頬を染め慌ててカレーを掻き込む姿が可笑しくて失笑が洩れた。
「後片付けは佐伯がやってくれ」
ふいっと視線を反らし空になった皿をさっさとキッチンへ持っていく。
「――御堂さん」
その後を追いかけ流しに皿を置くと腰に腕を絡めた。
反射的に顔を上げたその唇にチュッと触れるだけのキスを落とす。
「なっ!? ――ンっ!」
ゆっくりと唇を塞ぎ口腔内に舌を絡めて口内を堪能する。
「カレーの味がしますね」
「っ! 当たり前だっ!」
真っ赤になって俯いてしまいそうになる顎を持ち上げ再び唇を塞ぐ。
「ん……ふぁ……」
鼻から抜けるような色っぽい吐息は克哉の理性を吹き飛ばしてしまいそうだ。
「……私には?」
「ん?」
「私にはくれないのか?」
熱っぽい潤んだ瞳で見つめられ思わず喉が鳴った。
「そうですね、ホワイトデーの時にでも……」
「今、がいい。物なんか必要ない……」
熱い吐息と共に首に腕が回される。
克哉の腕の中で身体を反転させ、御堂の唇が近づいて軽く触れる。
「貴方は悪い人だ……俺を煽って。明日立てなくなっても知りませんよ」
「そうなったら困るのは君だろう?」
意地悪な笑みを浮かべ、御堂がクスッと笑う。
「後先を考える余裕なんて、きっと無いと思いますがね」
「……そう、だな」
互いに苦笑し、幾度となく口付けながら二人はベッドルームへと消えていった。
えんど
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