鬼畜眼鏡

LoveSick


その夜、克哉が部屋に戻ると、ふわんとしたいい香りが漂って来た。

克哉は滅多に料理を作らない。調理器具こそ揃えてはいるものの御堂が時々ワインのつまみを作ってくれるくらいで本格的な料理と言うものをしたことが無かった。

御堂だって、殆どが外食か出来合いのもので済ませることが多く余程気が向いた時にしか作らないと言っていた。

「――珍しいですね、貴方が料理を作るなんて。今夜はカレーですか」

匂いにつられてリビングに入ると、御堂がハッとしたように顔を上げた。

「ま、まぁたまには、いいだろう」

コトコトと小気味いい音を立てじっくりと煮込まれたそれは上品な黄金色。

程よく漂うスパイシーな香りがなんとも食欲をそそる。

「たまには……ね。ところで御堂さん、今朝言ったアレ用意してくれたんですよね?」

「あ、あぁ。まぁ……な」

適当に言葉を濁し、そそくさと皿にご飯を盛り付ける御堂を、目を細めてじっと見つめる。

「お楽しみは食後ですか。御堂さんも意地悪だ」

「……」

御堂は何も言わなかった。ただ、黙ってテーブルに夕食のセッティングをしている。

心なしか頬が染まっているような気がしたのは気のせいだろうか?

「何をしているんだ。早く席に着け」

あくまで淡々と声は告げた。

仕方なく席に着くと、スプーンに手を伸ばす。

一口含むと、予想していたよりずっとマイルドな味わいが口中に広がる。

「……どうだ?  うまいか」

まるで小さな子供が評価を待っているような仕草に思わず苦笑が洩れる。

「ええ、美味しいですよ」

そう言うと、御堂はほっとしたのか肩の力を抜いた。

カレーなんてただルーを入れて煮込んだだけなのに、少し大げさではないかと克哉は思った。

ジッと自分の方を見て一口も食べようとしない御堂を見ていると、逆に何か裏があるのではないか、とすら考えてしまう。

「何か隠し味でも?」

「……っ!」

ビクリと小さく御堂の肩が震えた。

/ススム



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