「まだ、帰らないのか?」
定時を過ぎても帰り支度をする気配のないあいつに声を掛ける。
「あぁ。今日中にやっておきたい仕事が残っているんだ」
パソコンから視線を逸らす事無く、そう答えが返ってくる。
今日くらい早めに切り上げたっていいじゃないか。
そう、言おうとのど元まででかけたが、すんでのところでとの言葉を呑み込んだ。
そんなことを言ったら、まるで私がアイツと一緒にクリスマスを過ごしたいって望んでいるみたいじゃないか。
そう――。
世間一般では、今夜はクリスマス。
至る所でツリーのイルミネーションが光り輝き、街はカップルたちで溢れ返っていた。
まぁ、アイツはクリスマスなんかには興味がないらしいし、特に私も期待していないのだが。
前にチラリとクリスマスの予定を聞いたら、仕事三昧だとか言っていたな。
一向にデスクから離れる気配のないアイツ。
私が手伝おうかと聞いても、”一人で出来る”の一点張りだし、ただ待っていると言うのも芸がない。
諦めて家に戻ろうかと席を立った瞬間、いきなり呼び止められた。
「御堂さん、席を立ったついでにそこの鞄を取ってくれませんか?」
顎でさす先に、黒い鞄が置いてある。
仕方なくそれを持って傍まで行くと、今度は中を開けろと言ってきた。
「全く、そのくらい自分で――」
そのくらい自分でしろと言いかけて、思わず言葉が止まる。
鞄の中には小さな箱が一つ。
「それ、開けてみて下さい」
「?」
リボンのついたソレをゆっくりと紐解くと中からフレグランスが。
「これは?」
「プレゼントですよ。 今日はクリスマスでしょう?」
「!」
パソコンの手を止め私の方に向き直り眼鏡のブリッジを上げる。
まさかこんな形で貰うとは思って居なかったから、驚きを隠せない。
「こんなムードの無い渡され方をしたのは、初めてだ」
「御堂さんの驚く顔が見たかったんですよ」
「――っ」
そっと手を握られて、佐伯が微笑む。
予想どうりのリアクションだったんだろうか、してやったりな顔がなんとなく癪に障る。
「わ、私のプレゼントは家にしかないからなっ」
まさか職場で渡されるとは思っていなかったから、家に置いて来てしまった。
私だってこうなることがわかっていたら準備したのに。
「物なんか要りませんよ。こうやって貴方と一緒にいれたらそれでいい」
腕を掴まれ、二人の距離がグッと近づく。
眼鏡の奥にある熱い視線とぶつかり鼓動が一気に跳ね上がった。
「だ、だがそれでは私の気が済まない。今からでも取りに……」
「じゃぁ、キスしてください。プレゼントのお礼って事で」
「なっっ!?」
とんでもない事を言い出し、思わず絶句した。
「そのくらいなら、今すぐにでも出来ますよね?」
笑顔を浮かべ佐伯の長い指先が私の唇に触れる。
まっすぐに見つめられると、目を逸らすことも出来ない。
「キス、だけだからなっ!」
そう念を押し、ゆっくりと唇を押しあてる。
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