「――はぁっはぁっ」
射精後自分の身体を支えきれなくなったのかズルズルと腰を落としそうになったのをすんでの所で抱きとめた。
「大丈夫ですか?」
やりすぎた。と言う自覚はある。
ほんの少しの悪戯のはずが歯止めが利かずに結局最後までイタしてしまった。
肩で荒い息をしながら俺にに凭れる片桐さんは、はにかんだ笑顔を浮かべ「大丈夫ですよ」と小さく答えた。
「やっぱり、年には敵いませんね」
「少し、調子に乗りすぎたな……」
決して俺を責める事のない片桐さんの態度。
朝の貴重な5分を無駄に使ってしまったのだ。バツが悪い事この上ない。
食事の準備まで中途半端なままだった事を想い出して、慌てて立ち上がろうとする俺の腕を片桐さんが掴んだ。
「もう少しだけ……こうしていてくれませんか」
俺の胸元に耳を当て、ゆっくりと呼吸を整える。
「佐伯君の温もりを感じている時が一番落ち着くんです」
「稔さん……」
そんな事を言われてしまっては離したくなくなってしまう。
朝の時間は限られている。
それは片桐さんも充分承知しているはず。
チラリと時計に目をやった俺の視線を追うように片桐さんもそちらに顔を向け、ハッとしたように慌てて身体をよじった。
「す、すみません。変な事言っちゃいましたね。早く準備しないと佐伯君遅刻……」
「そんなこと俺は気にしませんよ。一日くらい遅れたって大丈夫です」
逃げられないようにギュッと抱きしめると、不安そうな瞳にぶつかった。
今からなら急げばギリギリ間に合うかもしれない。
だけど……。
「あと5分だけ、このままで居させてください。俺もこうやって貴方の温もりを感じてい
ると落ち着くんです」
「佐伯、君……」
僅かに片桐さんの表情に戸惑いの色が浮かぶ。
たった少しの遅刻くらいは大目に見てもらおう。
「大丈夫。今はそんなに忙しいという程ではありませんから。少しくらいなら平気です。稔さんは嫌なんですか? 俺とこうやって過ごすのは」
「嫌だなんて、そんなっ。 嫌なんかじゃないです。寧ろ嬉しいくらいで……」
ブンブンと首を振り、僅かに頬が桜色に染まる。
「だったら構わないですよね」
そっと乱れていた前髪を整えておでこにキスをする。
片桐さんは躊躇いながらもそっと、背中に腕を回してきた。
時間がこのまま止まってしまえばいいと思ってしまう。
でもそれは、叶わない事だから……。
あと少し、ほんの、少しの間でいい。
「愛してます。稔さん」
「僕もです」
互いの温もりを確かめあい、吐息を感じながら俺達はゆっくりと口付けを交わした。
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