目が覚めると、キッチンから仄かにいい匂いが漂ってくる。
ベッドの脇にはきちんとアイロンのかけられたシャツが畳んで置いてあり、ゆっくりとそれに袖を通す。
ボタンを留めながらキッチンを覗くとスーツに青いエプロンを付けた片桐さんがせっせと朝食を作っているのが見えた。
ふわりと卵焼きの甘い香りが鼻を掠め匂いのするほうへと吸い寄せられてゆく。
ふと、俺の存在に気が付いた片桐さんは穏やかな笑顔を浮かべて手を止めた。
「美味そうですね」
「そうですか? いつもと変わらないですよ」
丁寧に盛り付けながらはにかむ。
そんな姿が何処と無く可愛らしいと思ってしまう辺り、俺は相当重症だろう。
背後に回り腰に手を回すと、片桐さんの動きがピタリと止まった。
「あ、あのっどうかしたんですか?」
「別に。こうしてると落ち着くんです」
肩に顎を乗せ、覗き込むようにして身体を密着させる。
もう何度も身体を合わせているのに未だに全身を緊張させて頬を染める姿が可笑しくて仕方が無い。
こうも初々しい反応をされたら苛めたくなってしまう。
前に回していた手をほんの少し上にずらす。
たったそれだけの事なのに息を呑み俯いてしまう。
「どうしたんですか? 早く朝飯作ってくださいよ。味噌汁もまだ途中じゃないですか」
「……は、ぁっそうだけど、でも……っ」
「でも?」
きっちりと留められたワイシャツのボタンをゆっくりと外しながら隙間に手を這わせる。
少し手を伸ばせば届く位置にコンロがあるのに、身を乗り出す事も出来ずシンクに手を突いたまま小さく震えている。
シャツ上から探り当てた乳首を摘むと、小さく「んっ」と鼻から抜けるような声が洩れた。
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