「――まだこんな所に居たんですか?」
「!」
不意に背後から聞き慣れた声がして、反射的に顔を上げた。
「居ちゃ悪いのか? 君こそ、今日は直帰だと聞いているが何故ココに?」
もやもやする気持ちを悟られぬよう出来るだけ感情を押し殺し尋ねる。
「別に、悪くはないですよ。 俺は忘れ物をとりに来たんです」
「……っ」
デスクの上に手を伸ばし、書類ごと例のプレゼントらしきものをカバンに詰める。
「もう仕事終わったんでしょう? 一緒に帰りませんか」
「結構だっ!」
スッと伸ばされた手を反射的に振り払う。
しまった! と思った。
案の定、佐伯は何故私がこんな行動に出たのかを考えるような仕草を始めた。
「御堂さん、何を怒っているんですか?」
「別に。怒っているわけじゃない」
「怒ってるじゃないですか。思いっきり不機嫌そうな顔をして」
「っ!」
頬を撫で、冷たい眼鏡のフレームが私を捉える。
「触るなっ!」
不快だった。
大事そうに抱えているカバンの中に例のプレゼントらしきものが入っているのが。
そのプレゼントを私の知らない人間に渡すのだろうと思うと、腸が煮えくり返りそうになる。
こんなに自分が心の狭い人間だったとは今まで思っていなくて、そんな自分自身にすらイライラする。
「やれやれ。取り付く島もない。何を怒っているのか話してくれないとわかりませんよ」
「私なんか気にせずに、何処へでも君の行きたいところへいけばいいじゃないか。今日は大事な用事があるのだろう?」
「用事ならもう終わりました。 明日の為にディナーの予約をしてきただけですから」
「明日? そうか、わざわざ仕事の合間に予約を取るくらいだ。さぞかし明日は大事な日なんだな」
嫌味で言ったつもりの言葉を笑顔でかわし、佐伯はヤレヤレと肩を竦めた。
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