「ただいま帰りました!」
「!!」
突然静かだったオフィスに明るい藤田の声が響き、私は咄嗟にその箱を元あった場所に戻した。
「あれ? 御堂さんどうかしたんですか? 佐伯さんなら今日は用事があるとかで戻って
きませんよ」
「なんだって? そんな話、私は聞いていないぞ」
「さっき俺の携帯にメッセージが入ってたんで、間違いないです」
「そう、か……」
私にじゃなく、藤田に連絡を……。
今まで一度もそんな事無かったのに……。
まさか、あのプレゼントの女と会っているのか?
一抹の不安が頭をよぎる。
一度生まれた猜疑心は消えることなく胸にしこりを残し、嫌な気分がどんどん膨らんでゆく。
「お疲れ様でした。 御堂さん帰らないんですか?」
「ああ。私はまだやることが残っているんだ。 君は先に帰りたまえ」
終業時間も過ぎて藤田が帰り支度を始める。
私もそろそろ、と思ったがとても席を立つ気にはなれなかった。
「それじゃ、お先に失礼しまーす」
呑気な明るい声が響き、オフィスのドアが閉まる。
一人っきりになった瞬間、私は深い溜息を吐いた。
あんな小さなプレゼント一つで何を動揺しているんだ。
もしかしたら、アイツの親へあげるものかもしれないじゃないか。
何も聞かされていないというのは不安なもので、つい疑ってしまう。
薄暗くなった室内で幾度となく溜息を洩らす。
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