鬼畜眼鏡

LoveSick


「だから、あれほど会社に入る前には外してくださいって言ったじゃないですか」

「うん、そうだね。ゴメン」

 すっかりシュンとしてしまった彼は自分より二十近く年上のはずだ。

 これではどっちが年上だかわからない。

 まぁ、そこが彼の良い所ではあるのだが……。

 威厳の”い”の字も感じられない彼の態度にわざとらしく盛大な溜息を吐いた。

 途端に片桐の肩がビクリと跳ね上がる。

「さ、佐伯く……」

「別に俺は怒ってないですよ」

 片桐が言葉を発する前に釘をさす。

 思っている事を見透かされ驚いたのか、口をポカンと開けたまま目を見開き自分を見つめる彼のリアクションがあまりにも判りやすくて思わず失笑が洩れた。
 
そう、別に指輪をしている事がバレた事を怒っているわけではない。

 結構抜けている所があるのは百も承知で、そう遠くない将来こうなることは予測済みだった。

 だが、ここまで盛大に事を大きくしてしまったら論外だ。

 此処に集まった面々は恐らく片桐のイイヒトを人目見ようと野次馬根性で集まった者達だろう。

 変なトコで頑固な癖に押しに弱い片桐は「恋人に会わせてくれ」と言う周囲の目に対応しきれなくなり仕方なく克哉を呼んだ。

 片桐の困った表情と周囲の盛り上がり方、本多の言葉を総合して考えると合点がいく。

 推測ではあるがほぼ間違いないだろう。

 克哉は改めて周囲を見回し、さてどうしたものかと考えを巡らせる。

 自然にばれてしまったと言うのなら仕方が無いが、今此処で自分たちが実は先日結婚しましたなどと報告する気はさらさらない。

 周囲の好奇の目にさらされるのは真っ平ごめんだとばかりに、眼鏡のフレームを押し上げた。


/ススム



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