「何言ってんだよ、お前も祝いに来たんだろ? 片桐さんの事」
「祝い?」
はて、何のことやら。 今日は何か片桐の大切な日だっただろうか?
誕生日を盛大に祝って貰うような年齢では到底ないし、自分の記憶してる限りで思いつく記念日には当てはまらない。
もしやいきなり昇進でもしたのだろうか?
いや、それはありえないだろう。
一時はリストラ候補にあがった程の彼だ。
それがいきなり昇進になる事など天と地がひっくり返ってもあり得ない。
と、なると一体……。
色々と思いを逡巡させていると、トイレから戻って来た片桐とばっちり目が合った。
その瞬間あからさまにホッとした表情を見せた彼に、これは何かあると思い近づく。
「これは、どういう事ですか?」
「それが――今日うっかりこれを嵌めたまま出社してしまって……本多君たちへ言い訳をしていたらいつの間にかこんな風になってしまって……」
眉を顰め困ったと言う表情の彼の左手には先日克哉が送った結婚指輪。
今まで貴金属など身に付けていない彼が突然指輪を、しかも左手の薬指に嵌めて来たのだ。
否が応にも目立ってしまう。
おろおろと言い訳していくうちに、どんどん墓穴を掘ってしまう彼の姿が容易に想像がつき軽い眩暈を覚える。
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