「ごちそうさま」
両手を合わせて箸を置く。
テーブルを挟んで座っていた片桐さんは申し訳なさそうな表情で空になった茶碗を片しにかかる。
「ごめんね、味噌汁煮詰まっちゃって」
「美味かったですよ。味噌汁も、片桐さんも」
「なっ!?」
茹でだこの様に真っ赤になり口をパクパクさせる片桐さん。
あまりに想像どうりのリアクションに思わず噴き出しそうになった。
「そう言えば、昨日は玉子焼きが焦げていたし、その前は魚が焦げてたな」
「それは佐伯君が触るからっ」
「俺が触ると料理を失敗するんですか?」
「それは……っ」
グッと言葉に詰まり、恨めしそうに俺を見つめる。
「もう、おじさんをからかわないでくれないか」
「ハハッ、すみません稔さんの反応があまりにも可愛かったもんだからつい、ね」
顎を持ち上げ至近距離で見つめると、片桐さんはうっとりと眼を閉じた。
「……キス、して欲しいんですか?」
少し意地悪をしてみたくなって尋ねると、目をぱちくりとさせて驚いた顔をする。
まるで「違うのか」とでも言いたげなその唇に、軽くキスを落とした。
「あ、あの……っ」
「どうしたんですか? 想像してたキスと違ったから不満? 心配しなくても仕事から戻ったらいくらでもしてあげますよ」
戸惑っている様子の彼に耳元で囁く。
本当にこの人は見ていて飽きない。
俺の欲しいリアクションを返してくれるし、いつまで経っても変わらない初々しい反応をしてくれる。
それが嬉しくもあり可笑しくもある。
不思議な充足感に浸りながら仕事へと向かった。
(終)
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