鬼畜眼鏡
LoveSick
「――佐伯?」
「!?」
突然呼ばれ、ドキリと胸が高鳴った。
「どうした。泣いているのか?」
「!」
スッと手が伸びて御堂さんの暖かい手が頬に触れる。
触れられた瞬間、今までの痛みや苦しさが嘘みたいに消えて不思議な安心感に包まれた。
「何を笑っている」
怪訝そうに眉を寄せオレを見つめる。
「なんでもありません」
「そうか。なら、いつまでもそんな格好していないで支度しろ」
相変わらず怪訝な表情をしたままいつもの口調でそれだけ言うと、御堂さんはシャワー室へと消えてしまった。
「オレ、やっぱり変だ」
触れられた頬が熱い。
自分でもなんでこんな気持ちになるのか解らなかった。
解らないけれど、御堂さんに触れられて安心してしまった自分が可笑しくて堪らない。
この気持ちの正体がなんなのか、今はまだ解らないけれどいつか判る日がくるのだろうか。
その時、オレと御堂さんの距離はどうなっているのだろう。
ゆっくりと昇り始めた朝日を見ながらそんな事を考えた。
(終)
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