「――そんなに見つめられたら、穴が開いてしまいそうですよ」
「!?」
突然手が伸びてきて強い力で引き寄せられる。
アッと思った時には既に佐伯の顔が目前にあり全てを見透かしたような瞳が俺を見据えていた。
「お、起きていたのか」
「いえさっき気が付いたんです。御堂さんがあまりにも熱い視線を送ってくるから」
意地悪そうな笑みを湛え、長い指先が頬を撫でる。
コイツは、いつもの佐伯だ。
眼鏡が無い事に気付いているのか気付いていないのか。
どちらにしろ、目の前に居るのはいつも一緒に居る佐伯克哉だ。
「どうかしたんですか?」
「いや、眼鏡を外しても以前のように変わらないのだなと思っただけだ」
「眼鏡?」
佐伯の視線がサイドテーブルに移り、そこでやっと眼鏡がない事に気が付いたらしい。
「御堂さんも可笑しな事を言いますね。俺は俺じゃないですかそれとも――」
「!?」
腰の下に手を宛がわれ一気に世界が反転する。
ギシリッとベッドが軋み気が付けば佐伯の下に組み敷かれていた。
「御堂さんは昔の<オレ>の方がよかったんですか?」
様子を伺うように尋ねられ困惑する。
「言っている意味がよくわからない。君は君じゃないか」
そう、今目の前にいる佐伯も以前のオドオドした佐伯もどちらも同じ。
「そう……ですね」
「佐伯?」
何処と無くホッとしたような表情に思わずドキリとした。
「御堂さんが昔の<オレ>の方が好きだって言ったらどうしようかと思いましたよ」
髪をかきあげ冗談とも本気ともつかない顔をする。
「くだらない事を言うな。私は外見や性格で君を好きになったんじゃない」
「じゃぁ、俺の何処を好きになったんですか?」
「それはっ」
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