鬼畜眼鏡

LoveSick


どんなに説得しても戻る気のない彼に根負けし結局御堂のマンションの前まで来てしまった。

いつものようにポケットにしまってあるカードキーを取り出そうとしてはたと手を止めた。

克哉がここでいつものように鍵を開けてしまっては本多に怪しまれる。

咄嗟にそう思い御堂の部屋のチャイムを押した。

「――こんばんわ、佐伯です」

「なんだ、どうした? キーを無くしたのか……っ!?」

直ぐに応対に出た御堂は克哉の後ろに居る人物に直ぐに気がつき驚き目を見開いた。

そして、どういう事だとばかりに睨みつける。

(どうしよう。御堂さん凄く怒ってる)

「すみません突然お邪魔しちゃって。 こいつが御堂さんのトコに行くって言うんで無理やり同行させてもらったんです」

「……そうか……まぁ、立ち話もなんだ。入りたまえ」

悪びれた様子も無く、事の事情を説明され、御堂はこめかみをぴくぴくさせながらも中へと招き入れた。

「へぇ、凄いな……いい部屋に住んでるんですね」

「まぁ、な。見える景色もいいし結構気に入っている。 今用意するから佐伯君手伝ってくれないか?」

まるで初めて田舎から出て来たおのぼりさんのように辺りを物珍しげにキョロキョロと見回す本多に適当に相槌を打つと克哉をキッチンの奥へと呼び出した。

「まったく……なんでアイツを連れてきたんだ」

「すみません。どうしても行くって聞かなくて」

腕を組み苛立ちを隠せない様子の御堂に克哉はうなだれてしまう。

彼にこんな顔をさせたくないのに。

自分だって今頃は二人で酒を酌み交わしながら恋人らしい時間が過ごせると楽しみにしていたのだ。

「まぁいい。来てしまったものは仕方が無い。適当に相手して追い返せ」

「本多は酒強いからな……そう上手く行くか」

「そんな事はどうでもいい。もし追い返せなかったらそのときは……」

ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ出来上がった酒の肴を持っていくようにと指示を出す。

そのときは、の続きがなんなのか。考えるだけでもぞっとする。

「待たせたな。今日は好きなだけ楽しんでいってくれ」

「へぇ、ワインですか洒落てますね」

テーブルに用意されたワインを眺め珍しそうに眺める。

「沢山あるからな。遠慮なく飲みたまえ」

作り笑いを顔に張り付かせたまま、手際よくワインをグラスに注ぐ。

「ありがとうございます! 俺、ワインは数えるほどしか飲んだことなくてすげぇ楽しみです!」

「そうか、それはよかった」

ニコニコしている御堂の表情は裏の感情を知っている克哉には恐ろしいものに見える。

(この微妙な空気、心臓に悪い)

キリキリ痛む胃を押さえ克哉はグラスに注がれる深みのある色をした液体を愛想笑いを浮かべながらジッと見つめていた。


/ススム



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