「はぁ」
九月も半ばをすぎ聖秀学院編入まで後わずかに迫った頃、吾郎はバイト先で商品の陳列をしながら本日何度目かの大きなため息をついた。
その表情は暗く、背中にはどこと無く哀愁を漂わせている。
事務的に陳列を終えると店長から
「茂野君、休憩入っていいよ」
と、声をかけられる。
吾郎は黙って頷くと、店の裏手に顔を出した。
狭い店内ではなんとなく落ち着かず、一人になるためにコンクリートの地面に腰を下ろす。
先ほど割り引いてもらったジュースを開けると、ゴクゴクと一気に飲み干した。
せみの声が余計に暑さを増長させ、吾郎は額の汗を拭った。
そしてまた、深いため息が洩れる。
彼が落ち込んでいる原因は、もちろん寿也だ。
二、三日前に喧嘩をしてしまい、それっきり電話をしても出てくれなくなってしまった。
昨夜などは、わざわざ家にまで言って謝ろうかと思っていたのに、カーテンを締め切り顔も見せてはくれなかった。
短い休憩を終えて、レジに立ち機械的にやってくる客の対応に追われる。客足は途絶えることなく時間も刻々と時を刻む。
ふいに客足が途絶えた。
「茂野?」
ぼーっと有線に耳を傾けながら聞いていて急に名前を呼ばれハッと我に返る。
目の前に現れたのは、ガムを片手にもった眉村健だった。
吾郎は、意外な人物に目を丸くする。
「こんなところで何してるんだ?」
「見りゃわかるだろ? バイトだよ、バイト」
差し出されたガムにテープを張り、代金と引き換えた。
商品を受け取っても眉村は動こうとせず、じっと彼を見つめる。
「なんだよ。釣銭なら今渡しただろ?」
眉をしかめいつもの口調でそういうと、用が済んだら帰れとばかりにしっしっと右手を振る。
「茂野、バイト終わった後、空いてるか?」
「え? ああ、まぁ」
唐突に予定を聞かれ、曖昧な返事をする。
何時に終わるんだ? と尋ねられふと時計を見た。
「後十分くらいだけどなんだよ?」
訝しげに顔を覗くと、彼はわずかに笑った気がした。
そして、そのまま何も言わずに店から出て行ってしまう。
「なんだぁ、アイツ」
首をかしげていると再び客の波がやってきた。
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