地区大会一回戦の相手は陽華学園。万年よくて二回戦止まりのチーム。
負傷者の吾郎と素人ばかりの聖秀野球部にとってはかなりの好カードのはずだった。
途中コールド負けの危機に晒されたがギリギリで怪我をしていた足の調整が間に合った吾郎の活躍でなんとかチームは持ち直し逆転。
悲願の初勝利をもぎ取った。
しかし、その代償は大きく吾郎の足の怪我は悪化。
医者からは試合なんてとんでもないとドクターストップを言い渡される。
だが、そんな事で諦めるような吾郎ではなく痛み止めの注射を打ってマウンドへ上がる決意を固める。
そして小森達がいる三船戦の朝、吾郎はいつもより早く家を出て大河の家へと足を運んだ。
「……ホント信じらんねぇ。アンタ馬鹿じゃねーの?」
痛み止めの注射を打って試合に臨むと大河に告げると、彼は呆れたように息を吐いた。
「馬鹿でもなんでもいいんだよ。俺はどうしても試合に勝って、勝って、勝ち進まなくちゃいけねぇんだ」
「どうしてそんなに勝ちに拘るんっすか? 先輩がそこまで海堂とやりたがる理由ってなんなんですか」
いつになく真剣な表情の吾郎に思い切って前から気になっていた事を尋ねてみる。
王者海堂を倒したい。
それを目標に掲げ厳しい練習をしている学校なんていくらでもあるだろう。
だが、吾郎の打倒海堂という目標には何か特別な意味があるように思えて仕方がない。
「理由か……ただ純粋に強いヤツらと戦いてぇ、って答えだけじゃ満足してくれなさそうだな」
強い瞳で見つめられ、誤魔化しても無駄そうだと悟った吾郎は鼻の下を擦り観念した。
「理由っつっても全然たいした事じゃねぇよ。ただ、あいつらが居るから……」
「あいつら?」
「そう、俺の目指すところに眉村や寿也が居るから俺は頑張れるんだ。 あいつらと戦うのは俺の夢だからな」
「……」
高い空を見上げ、遠くを見つめる吾郎を大河はジッと眺めていた。
今は遠い存在になってしまった彼らに近づく為にも海堂と当たるまで負けるわけにはいかない。
「だから頼む! 俺たちが勝つ為にはどうしてもお前の力が必要なんだ」
ガシッと肩を掴まれ真剣な瞳が大河を捉える。
大河は小さく息を吐くと、肩に置かれた手をそっと振り払った。
「ま、やれるトコまでやってみますよ。俺も海堂戦までは進みたいと思ってるし」
「大河……」
「どうせ乗りかかった船だし、俺もこんなトコで負けてたら有名になれないからやるっきゃないっしょ」
「あぁ、そうだな。頼んだぞ」
ポケットに手を突っ込み前を歩く小さな身体に期待を寄せ、吾郎もその後を追うように球場へと向かった。
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