「凄い人だね」
一月一日。
今にも雪がちらつきそうなどんよりとした空の下、周囲を見回していた寿也がうんざりとしたように呟いた。
「しゃーねーよ。元旦だし」
目の前には初詣客が長蛇の列を作っており、今から自分たちもこの波に揉まれると思うと自然と気分は重くなる。
もちろんこの状況は想定の範囲内だったがいざ人混みを目の前にするとどうしても尻込みしてしまう。
「こうしてたってしゃーねーし、行くか」
「そうだね」
はぐれないように二人はしっかりと手を繋ぎ、意を決して列の最後尾に並ぶ。
並びながら、吾郎は去年の正月の事を思い出しフッと自嘲気味の笑みを零した。
「どうかした?」
「え? いや、なんでもねぇ」
不意に顔を覗き込まれ、慌てて首を振る。
寿也は訝しげな表情を向け眉を寄せた。
「なんでもねぇっての。ちょっと去年の事思い出しただけだから」
苦笑しながら呟くとハッとしたように顔を上げる。
「あんときは若かったなと思ってさ」
「何言ってるのさ。今だって充分若いだろ?」
「ハハッそれもそうだな」
(この一年色々有り過ぎて去年の出来事が遠く感じる)
フッと吾郎の表情が曇る。
それは一瞬の変化で側にいる寿也でも気付かない程度のものだ。
「それにしても、マジで人多いな〜」
ふと浮かんだ心のモヤを振り払うように吾郎は今にも降り出しそうな空を仰ぎ見る。
「寒いのにみんなよく来るよね」
「それを言うなら俺たちもじゃねぇか」
「それもそうか」
コートのポケットに繋いだ手を突っ込み苦笑する。
「お、おいっ!」
「大丈夫。これだけ人が居れば僕らが手を繋いでるなんて誰も気付かないよ」
慌てた様子の吾郎に寿也は笑顔を見せた。
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