海堂編

LoveSick


その部屋に着き、吾郎は顔を引きつらせた。


できれば今すぐにでも帰りたい気持ちでいっぱいだったが、ここで逃げ出すと明らかに田代達に怪しまれてしまう。

できるだけ平常心を装っては見るものの、明らかに意識してしまっていた。

部屋の一番隅に座りとりあえず置いてある本を手に取り、新譜を選ぶフリをする。

これじゃぁ、まるで拷問だ。

そう思った。よりによって、昨日と同じ部屋に案内されるなんて。

昨日、自分が座っていた場所には藤井が座っていて、マイク片手に熱唱している。

ふと、そんな吾郎の様子がおかしいことに田代が気がついた。

「どうした茂野。おかしな顔して?」

「何でもねぇよ、なんでも」

ふいっとドアの向こうに視線をうつすと、どこかで見たことのある顔が隣の部屋へ入っていくのが見えた。

「悪りい、ちょっとトイレ」

立ち上がって、外に出るとドンッと誰かにぶつかり鼻を打った。

「おっと、すまんな……ってあれ、茂野じゃねぇか」

「薬師寺!?」

鼻を押さえながら顔を上げると、私服姿の薬師寺が立っていて、部屋の中に三宅や寺門などの懐かしい顔ぶれが見えた。

「お前ら、こんなとこで何やってんだよ?」

「何って息抜きだよ、息抜き」

「カラオケならすぐ近くにもあるじゃねぇか」

なんでわざわざこんなとこまで。

言おうとしたら、薬師寺のすぐ後ろから、寿也とその更にうしろに眉村が歩いてくるのが見えた。

寿也は、すぐに気がついて嬉しそうな表情をして近づいてくる。

「驚いたなこんなとこで会えるなんて。吾郎君も友達と来たのかい?」

「あ、あぁ。まあな。それより寿、なんでわざわざここまで来たんだ? カラオケならすぐ近くにあっただろ」

「うん、僕らも最初そこに行こうかと思ってたんだけど、眉村がどうしてもここがいいって言うから」

「なにぃ!?」

驚いたのとほぼ同時に、後ろの眉村と目が合って、体が固まってしまった。

彼は、昨日渡したばかりのマフラーを首に巻いている。

そんな吾郎を見て、ふっと眉村が笑った気がした。

「昨日と同じ部屋……思い出したくて来たのか」

「!!!」

すれ違いざまに囁かれ、口をパクパクと動かすが声にならない。

その様子に再びふっと笑みをこぼす。

そんな二人のやり取りを、寿也は目の端に捕らえていた。

吾郎は、不信に思った藤井から声をかけられるまで、その場に固まったまま動けないでいた。

(し、心臓に悪りぃ)

隣に二人がそろっていると思うと、想像するだけでも恐ろしい。

部屋に戻った吾郎は、早く終わってこの場から開放されるのをひたすら願っているのだった。

「眉村、どうしてここを選んだんだい? 吾郎君となにか関係が?」

「さあな」

「僕の吾郎君に手ぇ出したら、許さないからね」

「そんな事は本人に聞け。もちろん負けるつもりはないが」

吾郎の隣の部屋で、海堂の新生一軍メンバーが盛り上がる中、二人は静かにバトルモードに突入していた。


/ススム

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