海堂編

LoveSick


十二月になり、聖秀野球部の練習にもいっそうの力が入る。

来年の四月には清水の弟大河が入部してくれることがほぼ確定した。

ちょっと生意気そうだが、それでも横浜リトル、シニアでレギュラーを張っていたという実力はありがたい。

これで九人そろう。

そう思うとアップの十キロ走だって、吾郎にとっては大したことは無かった。

自宅に戻ってもトレーニングルームでひたすら汗を流す日々が続く。

海堂を辞めてからも、あの泰造が作ってくれたトレーニングメニューだけはきっちりと毎日欠かさず行っていた。

一歩でも彼らに対等でいられるよう、マウンドに上がって引けを取らないように無心になって努力する。

気がつけば、もう一月ほど二人とは連絡を取っていなかった。

ふと、トレーニングルームへ近づく足音に気がつき、動きを止める。

「吾郎兄ちゃん、お客さん来たよ」

よびに来てくれたのは、弟の真吾だった。

汗が体中に張り付いて、気持ち悪かったが客を待たせるわけにもいかず、真吾の後をついてゆく。

一体誰がこんな時間にきたのだろうか?

田代か、それとも藤井か?

自分の部屋で待っているその人物を想像しながら部屋を開けて驚いた。

そこには、部屋にある野球の雑誌に目を配らせている寿也が居た。

「寿! 何でお前がここに?」

彼は吾郎に気がつくと涼しげに笑う。

久しぶりの彼の笑顔になんだか癒される気がした。

「ごめんね、急に。最近電話かけてもでないから、ちょっと気になっちゃって。もしかして迷惑だった?」

「全然! ってか、すっげぇ嬉しい」

素直な感情を言葉に出して、なんだか照れてしまう。

それと同時に、自分が汗臭いことに気がつき慌てて着替えをつかむ。

「俺、急いで風呂入って来るから、少し待ってろよ寿」

彼がコクンと頷いたのを確認し、風呂場へ直行した。

湯船に浸かりながら、吾郎は久しぶりに会いに来てくれた嬉しさでいっぱいだった。

同時に今まで以上に緊張している自分に気がつき、可笑しさがこみ上げる。

彼が部屋で待っている、そう思うと顔が自然に緩んでいた。


/ススム

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