昼休み吾郎は英語教師兼野球部監督のアメリカ人山田一郎に呼び出された。
屋上に野球グラウンドを作れという彼のセリフに言葉を失う。
「おい茂野マジでやる気かよ?」
「まぁな。仕方ねぇよグラウンド無きゃ野球できねぇし」
放課後、誰もいなくなった教室で制服を脱ぎ始める吾郎のそばに藤井がやってきた。
黙って着替える彼の仕草に、ふと色香を感じ思わずごくりと唾を飲む。
その視線に気がついて、吾郎が呆れた声を上げた。
「藤井……まさかお前、野郎の着替え覗いて喜ぶ趣味でもあんのかよ?」
「えっ!? あぁスマン。そういうわけじゃねーけど」
パッと目を逸らし、ぶるぶると首を振る。
別に男が好きなわけではないが、一瞬だけ見とれてしまった。
自分でもなぜだか判らない。
吾郎はそんな彼を見て、
「変な奴だな、お前」
と、笑う。
その時ふと彼の首筋に印が見え隠れしているのに気がついた。
そういえば、昨日大慌てで走って帰っていったけど、やはりデートだったのかと頷く。
吾郎はその様子を具合が悪いと勘違いして、顔を覗き込む。
どうやら、首筋の印には気がついていないらしかった。
「おい、何そんなとこで唸ってんだよ? 腹でも痛いのか?」
「違うって、それより茂野。……それより、ココ付いてんぞ。昨日はイイコトしてきたのか? やるなぁ〜お前」
「いっ!?」
藤井の冷やかしにも似たセリフに彼の顔がみるみるうちに赤く染まる。
いつも態度のデカイ彼の意外な一面に驚きながら、手鏡を渡す。
その鏡を受け取り、恐る恐るうつしてみると、確かに襟元のすれすれの部分に付いていた。
(寿也のヤロウ絶対付けんなって、言ったのに……)
腹が立ったが、そんなことを思っても付いている事実は変わらない。
「なぁ、藤井、今度なんかおごるからこの事は秘密にしといてくれよ。な?」
「別にいいけどよ、お前彼女いたんだな」
「え? あ〜まぁな」
本当は彼氏なのだがその辺は触れないように、気の無い返事をする。
これ以上藤井の詮索を受けては堪らないとばかりに、吾郎はスコップとバケツを持って裏山へ上る。
そこは雑草がいっぱいで、まずは草むしりから始めなければいけなさそうだ。
藤井も手伝いたそうな顔をしていたが、けが人に重労働をさせるわけにはいかないので、さっさと追い出し一人で土を掘り進める。
じっとりと汗を掻き日が沈みかけた頃、校門の前がやけに騒がしくなってきた。
「なんだぁ?」
不思議に思っていると、ちょうど目の前に女子生徒が走って友達を呼びにきたのが見えた。
「校門の前に、海堂高校の制服着たすっごく怖そうな男の子が立ってるんだけどちょっと見に行ってみない?」
「えー、どうせ誰かの彼氏でしょ?」
「それが、背が高くってスポーツマンみたいな人なの。見るだけ損はしないって」
そういって、校門のほうへと走っていく。
(海堂にいる怖そうな奴か……眉村だったりして?)
ふと、彼のことが頭に浮かびぶるぶると首を振る。
アイツがこんなとこに来るはずない。
しばらく作業を続けていたが、日も落ちてきたので帰ることにした。
制服をかばんに詰め込み、着の身きのまま歩いてゆく。
校門の前に、先ほどうわさしていた男子生徒が立っているのが見える。
薄暗くてよく見えないが背格好は彼にそっくりだった。
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