三船戦は前回よりもっと苦戦を強いられた。
吾郎に引き続き大河までも負傷し、それでも最後は吾郎が締めてなんとか2勝目を上げる事が出来た。
決して楽じゃない試合内容に苦笑しながら、病院へ寄って診察を受ける。
その帰り道小森と会い少し話をして別れると見慣れた後姿を発見し声を掛けた。
「おーい! 眉村じゃねぇか」
「茂野……」
「久しぶりだな。今日は休みか? 珍しいじゃねぇかお前がこんなトコに来るなんて」
以前と変わらぬ様子の彼に少し安堵しながら尋ねると、眉村は小さく息を吐いた。
「相変わらずよく喋るやつだな。 今日は中休みだったんで気分転換だ」
「へぇ、羨ましいねぇ。強豪校は……その余裕がムカつくぜ」
皮肉たっぷりに言っても眉一つ動かさず、吾郎は内心チッと舌打ちした。
「そんなことより、お前足を怪我したと聞いたが大丈夫なのか?」
チラリと左足に視線を移され内心ドキリッとした。
なんで眉村がそんな情報を知っているのか。
眉村が知っているという事はもう寿也の耳にも入っているのかも知れない。
「別にたいした事じゃねぇし。つか、何? 心配してくれてんのかよ?」
冗談めかして顔を覗き込むといきなり物凄い力で抱きしめられた。
あまりに唐突な事で反応が遅れた吾郎は目を丸くしたまま腕の中にすっぽりと収まって反応が遅れてしまう。
「ちょっ、お前俺と別れたんじゃなかったっけ?」
内心ドッキドッキと早まる鼓動を悟られないように平常心を装って見るものの、頬は僅かに染まり手のひらにじっとりと汗を掻き始める。
「お前が怪我をしたと聞いて、居ても経っても居られなかった」
「眉村……」
耳元で切なげに呻くような声が聞こえ、抱きしめた腕に力が入る。
自分が思っている以上に彼に心配をかけていたんだと思うと、なんとなく申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「心配すんなって! 今日だって二回戦突破してきたとこなんだ。あと三つ先でお前らと当たる予定なんだから、俺の心配なんかして油断してっと海堂なんかあっと言う間にノックアウトしちまうぞ」
「そうか……それは楽しみだな」
「あ! なんだよ、その顔。俺たちでは無理だって言いてぇのかよ」
フッと笑みを零した眉村に少しホッとしながらも、なんとなく馬鹿にされたような気がして口をへの字に曲げた。
「別にそうは言っていない。まぁ、せいぜい頑張る事だな」
「その上から目線の物言いがムカつくって言ってんだよ。 ぜってぇお前をマウンドに引き出してやるから覚悟しとけ!」
すっかりいつもの調子の吾郎だと判断した眉村は安堵の溜息を一つ吐き、吾郎の額に軽く口付けるとゆっくりと抱きしめていた手を離した。
「あ……」
「なんだ、おでこにキスだけじゃ物足りないか?」
一瞬寂しそうな表情を見せる吾郎をチラリと見つめる。
「なっ!? んなわけねぇだろっ! 変なこと言うなっ」
「……せいぜい頑張れよ」
眉村は喉の奥でクッと笑い軽く手を振って寮の方向へ歩いて行った。
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