(吾郎君、大丈夫かな……)
大河と鉢合わせした後、寮に戻った寿也は本日幾度目かの溜息を洩らす。
会わないと決めて引き返して来たものの、やはり気になって仕方がない。
こんな事ならなりふり構わず言って会ってくればよかったと後悔の念が押し寄せる。
「おいおい、どうした? 今日は練習に身が入ってねぇじゃねぇか」
不意にポンと肩を叩かれた。
「ごめん。ちょっと……」
「……茂野の事だろ?」
「!?」
薬師寺の口から吾郎の名前が飛び出し反射的に顔を上げる。
「さっき、国分達が2軍寮に行った時に監督から聞いたらしい。まぁ、ウチを出て行った馬鹿なんかほおっておけよ。幼馴染が怪我したなんて聞いて気が気じゃねぇのはわかるが……俺たちはやらなきゃいけない事があるだろ? 夏の大会まであと少しだ」
「うん、そうだね。ごめん」
ポンポンと腰を叩かれハッとする。
そうだった。夏の大会はもう直ぐ。
吾郎のことは心配だが自分には主将としてチームを引っ張って行く義務がある。
「しっかりしろよ、主将!」
それだけ言うと、薬師寺は再び練習に戻って行った。
(今の僕には立ち止まってる暇なんてないんだ。吾郎君の事は目を瞑ろう)
大会に集中する為にも、暫く距離を置くと決めた自分の為にも。
完全に気にならない筈はない。
けれど、吾郎を気にして練習に身が入らないのは困ったもので、今気持ちがグラついてしまうわけにはいかないのだ。
(夏の大会……甲子園で優勝するまでは、吾郎君の事は忘れなくちゃ)
寿也は大きく深呼吸を一つして、再び練習に集中した。
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