海堂編

LoveSick


コンコンコン。

ドアをノックする音が静かな病室に響く。

「開いてるよ」

呑気な声響いてくるのを確認し大河はゆっくりとドアを開けた。

あれだけ野球馬鹿な彼の事だ。さぞかし凹んでいるだろうと思いながらゆっくりと部屋を見渡す。

「――って、なにやってるんっすか、先輩!?」

まず飛び込んできた吾郎の姿に大河は思わず吃驚した。

てっきり大人しくしているとばかり思っていた吾郎は、ベッドの上で鉄アレイ片手に故障者用トレーニングマニュアルを読んでいたのだ。

「じっとしてんのは性に合わなくってさ。少しでも身体動かしてないと鈍っちまいそうだからな」

明るく笑い飛ばしながらもせっせとトレーニングを続けている。

痛々しいギプスで固定された足とのアンバランスさに開いた口が塞がらない。

チラリとテーブルに目を向ければ沢山のウエイトやグッズが転がっている。

(この人……やっぱ馬鹿だ)

病院に来てまで筋肉トレーニング。

自分なら絶対そんなことごめんだと、大河は思った。

「みんな、元気にやってっか?」

「えぇ。それなりには。先輩が居なくなって士気が下がってたけど、今は取り敢えず新しいメンバーも入ったんで一回戦突破目指して特訓してるトコですよ」

「そっか……」

大河の報告に吾郎からそれ以上聞いてくる事はなかった。

心なしか嬉しそうな表情をする彼に、心底野球が好きなんだと感心してしまう。

「僕からも、一つ聞いていいですか?」

「あん? なんだよ。遠慮せずに聞けばいいじゃねぇか」

「最近、佐藤先輩と会いました?」

”佐藤”の単語に吾郎の腕がピタリと止まる。

一瞬大きく目を見開き何か言いたげに唇が震えたが声にはならず、吾郎はゆっくりと息を吐いた。

「会ってねぇぜ」

「入院してから一回も?」

「あぁ。つか、入院してる事すらあいつは知らねぇよ」

最後に会ったのは正月だった。

もう半年近く声を聞いていない。

「なんで、そんな事聞くんだよ」

「いえ、別に……」

(茂野先輩が俺に嘘付く理由なんてない。だとすると佐藤先輩、ここまで来てなんで会わなかったんだ?)

もう吾郎の病室は目の前だったはずだ。

病室が開けられなかった理由はなんだろう。

「先輩。僕がココに来る前だれか来ましたか?」

「はぁ? 今度はなんだよ。今日は誰も来てねぇぞ。綺麗なナースとおっさん医者くらいだな」

「そうですか……」

冗談めかして言った言葉を綺麗にスルーされ、吾郎は小さくガクッと肩を落とす。

「たくっ、なんなんだ。俺の身辺調査か?  ……あ、わかったぞ! お前、俺の事好きなんだろう」

「はぁぁっ!?」

ニヤリと笑い髪をかき上げる。

「悪い。俺、他に好きなヤツがいるんだ」

「冗談。アンタみたいな筋肉馬鹿、誰が好きになるんですか」

筋肉馬鹿と言われ吾郎のこめかみがピクリと震えた。

「ははっ、相変わらず生意気なガキだな。足が自由だったら一発ぶん殴ってやるトコだぜ」

「うっわ、暴力反対。 せっかく凹んでるあんたの顔拝んで馬鹿にしてやろうと思ってたのに、その様子じゃ大丈夫そうっすね」

「なんだ、もう帰っちまうのか? もう少し居たっていいじゃねぇか」

荷物を持って立ち上がると、吾郎が一瞬寂しそうな表情をする。

「……置いてかれそうな子犬みたいな顔してる。 そんなに側に居て欲しいなら先輩が寝るまで頭撫でてやってもいいっすよ?」

「なっ!? だ、誰がんなコト頼むかっ!」

頬を染めてムキになる彼を見て、今度は大河がニヤリと笑う番だった。

自分より年上で、自分よりかなり図体もでかいのに、何処となく子供っぽさを感じなんとなく可愛いかもと、思ってしまう。

(って、可愛いわけないじゃん!)

チラリと頭を過ぎった感情を慌てて振り払い、床に落ちていたウエイトを拾い上げた。

それをテーブルの上に置き軽く布団を整えてやった。

「冗談ですって。これからまた練習に戻らなきゃいけないんで」

「あ、ぁあ」

一旦扉の前で立ち止まり、視線だけを吾郎に向ける。

「また来ます。先輩が寂しくないように今度は添い寝してやりますよ」

「なっっ!? お前なんかに慰めて貰うほど俺は落ちぶれてねーっての!!」

いちいちムキになって反論してくる彼の態度が可笑しくて大河は肩を震わせながら病室を後にした。

/ススム

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