(吾郎君が怪我をした……)
ベッドに寝転がり、無機質な自室の天井を眺める。
彼とは大会が終わるまで距離を置くと決めたのだから、気にしてはいけない。
そうわかっているのに胸のざわめきが消えずに落ち着かない。
(もう、僕には関係のない事じゃないか)
何度も何度も自分に言い聞かせる。
怪我と言ってもたいした事はないのかもしれない。
綾音が少し大げさに書いていただけかもしれないし。
しかし……。
(手術が必要なほどの怪我って……)
どんなに考えまいとしてもつい、思考がそっちの方へ向いてしまう。
寿也は起き上がると壁にかかっている時計をチラリと見つめた。
まだ夕食まで時間はある。
少し様子を見て戻ってくるには充分だろう。
適当にジャージを羽織り出掛ける支度をする。
「茂野のところに行くのか?」
「!」
はやる気持ちを抑えつつ玄関で靴を履いていると後ろから声を掛けられた。
「……君には関係ないだろう? 眉村」
振り向かずに答えドアを開けようとする腕を眉村が掴む。
「 行くのは止めろ。 アイツとの事はケリを付けたんだろう?」
「……」
背後から低い声がする。
そうだ、確かに会わないと決めた。
本人にもそう伝えた。
眉村にそう報告した事はないが、態度を見ればわかることだ。
だが……。
「ごめん。吾郎君に会うつもりはない。 少しだけ、真実を確かめに行くだけだから」
「真実?」
「……っ」
俯き、取っ手を握る手に力が入る。
「直ぐに戻る」
それだけ言うと、眉村の制止を振り切って自転車に跨る。
(怪我の真実を確かめるだけ……。それだけだ)
そう自分に言い聞かせ、寿也は一心不乱に自転車を吾郎が入院していると書かれていた病院へと走らせた。
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