吾郎が入院したその日、寿也達は丁度遠征に出かけていた。
充実した練習試合を終えて戻って来た寿也を待っていたのは1通の手紙。
「なんや、また彼女からのラブラブレターかいな。羨ましいわ」
「よせよ。そんなんじゃ……」
勿論差出人は綾音。 丁寧な女の子らしい文字や便箋を見れば、冷やかしたくもなる。
三宅や児玉の下世話な冷やかしを綺麗に無視して封を切り、中身にさっと目を通して絶句した。
(吾郎君が怪我で入院だって!?)
そこには先日行われた2軍との試合の事が書かれており、吾郎が居なくなってチーム存続の危機にあることが記されている。
信じられなかった。
あの吾郎が試合中に怪我?
試合に出られない?
直ぐには受け入れがたい現実に、全身の血の気が引いてゆく。
何かの冗談だと思いたくて自然に手が震え、嫌な汗が背中を伝った。
「なんや、どうかしたん? 顔色悪いで」
急に黙り込んだ寿也の態度がおかしい事に気付き三宅が声を掛けた。
「なんでもないよ」
そう呟いた声も僅かに震えてしまう。
慌てて手紙を折りたたみ、ポケットの中に押し込んだ。
動揺を隠そうとしても、こんな内容を知ってしまった後では上手く誤魔化せそうにない。
「ごめん。この後の予定はもう無かったよな。僕、部屋に戻るよ」
「あ、おい!」
これ以上仲間に迷惑を掛けるわけにはいかないと、足早に部屋へと戻る事にした。
その彼の変化の一部始終を眉村はジッと黙って見つめていた。
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