数分後二人は会場から少し離れた土手に来ていた。
ココからでは、建物の陰になって花火も見ることが出来ないため人は誰もいない。
「寿のせいだからな」
「わかってる。反省してるから。そんなに怒んないでよ」
土手に腰掛け未だに顔を向けてくれない相手をじっと見る。
恥ずかしさから見てくれないのか、それとも本当に怒ってしまったのだろうか?
寿也は空を仰ぎ見た。
夜空には、花火の残った煙が厚い雲のようにいくつもたなびいていて決して美しいとは言いがたい。
「でもさ、吾郎君だって悪いんだよ?」
「な、なんでだよ!?」
バッと顔を上げて、振り向いた彼は俺が何をしたんだと言わんばかりの形相をしていた。
「ただでさえ、僕は君に会えなくって欲求不満だったのに、そんなエッチなカッコで来るんだもん」
ガマンできるわけがない。
寿也の言い分に吾郎は口をあんぐり。
「それに、あんなに沢山の人が側にいたからすっごく燃えてたじゃない」
「も、燃えるかよ!!」
「そうかなぁ。いつもの吾郎君より、今日はずいぶん声が大きかったから……僕のほうがヒヤヒヤしたよ」
「っ!!」
小声で囁かれ、何も言えなくなる。
行為の後半は頭の中が真っ白になってしまったのは事実だ。
「とにかく、今度からは場所考えてからじゃねぇと……って聞いてんのかよ?」
「うん、聞いてるよ。いいから話、続けなよ」
と言いつつ、彼の手は吾郎の懐の中へ――。
「だから、こういうことは……ぁ場所、選べって」
時々、彼が弱い部分を摘んだり、引っかいたりするのでそのたびに身体を震わせる。
「大丈夫。誰もいないから」
「そういう問題じゃ……ねぇだろ」
「本当にイヤなら、僕を蹴り倒せばいいだろ?」
吾郎に向かって正面に膝立ちをして、顔を覗き込む。
堪らず、そっぽを向いて耳まで真っ赤に染めた彼を、そっと抱きしめる。
(吾郎君は本当に顔にすぐ出るから、わかりやすいな。)
彼といると、いつも自制が効かなくなる。
どんなにガマンしようと心に決めていても、その声や行動を目の当たりにすると自制心なんて言葉はすぐにどこかへ飛んでいってしまう。
所構わず押し倒して全て自分のものにしたくなる。
理性なんてものは茂野吾郎と言う存在の前では、全く無意味なものだ。
本当にイヤなら拒絶してくれればいいのに、嫌がっているのは言葉だけで、全身では全くと言っていいほど抵抗するそぶりが無い。
例え抵抗したとしても、簡単に押さえつけられる程度のものだ。
本気で拒絶されたら、絶対に寿也のほうが負けるのは目に見えているのに。
中途半端に受け入れて、もしかしたらと期待してしまう。
ムードにとても流されやすく単純な性格の彼は、いつも寿也の心をかき乱す。
「場所を選べって言うけど……じゃぁ何処ならヤラせてくれるんだい?」
「……露骨な言い方するなよ」
「だって、家族がいるから、家はダメ。外もダメって。どこならいいのさ?」
「それは、親がいねぇ時しか……」
「そんな日、いつあるんだよ」
そう言われて、言葉に詰まる。
今までは寮で同室だったから、周りに気にせずイチャイチャできたが、普通の生活に戻ってしまったいまではそう簡単にはいかない。
一緒にいて、以前のように仲良くしたい。
そう思う気持ちは吾郎も同じだったが、周りの目が気になってそれどころではない。
若い二人にとって、悩みは尽きなかった。
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