「へぇ、茂野先輩って彼女いたんっすね」
「だろ? びっくりだよなー。コイツ女っ気あるように見えねぇし。 なんでも、小さい頃からの幼馴染らしいぜ」
「幼馴染?」
珍しく食いついてきた大河の態度にすっかり気を良くした藤井はペラペラと言わなくていい事まで話始めた。
(幼馴染……ねぇ。姉貴知ってんのかな)
「藤井先輩は、その彼女さんと会ったことあるんですか?」
ふと洩れた大河の疑問に吾郎の肩がピクリと跳ねる。
そんな彼の小さな変化に藤井は気づく事無く肩を竦め眉を寄せた。
「それがよぉ、いっくら会わせろっつってもなんだかんだではぐらかされちまって。そういや、名前も聞いたことねぇな……」
「もういいだろ、その話は。とにかく、俺はもう行くからな!」
チラリと視線が合った吾郎はこれ以上追及されては堪らないとばかりに藤井の腕を振り払い逃げるように部室を飛び出した。
「たくっ、名前くらい教えてくれたっていいじゃねぇか。なぁ?」
「……」
(妙だな……自分の事を教えたがらない人はいるけど、ここまで知られてて名前も明かさないなんて……何か言えないわけでもあるのか?)
不思議に思う気持ちに答えは出ず、もやもやした気分のままグラウンドに向かう。
(なんだかひっかかるんだよなー。鈴木に対しての態度とか、あやふやな彼女の存在とか)
他のメンバーが集まって練習が始まっても疑問は膨れ上がってゆくばかり。
そんなもどかしい気持ちをボールに乗せキャッチボールを続けていると、監督である山田が現れ集合をかけた。
「次の練習試合の相手が決まりました――」
そう言って始まった山田の話。
数秒後には大きなざわめきが沸き起こっていた。
次の対戦相手は海堂2軍。
「へっ、面白い。やってやろうじゃねぇか」
周囲の動揺なんか気にも留めず吾郎はグッと拳を握り締めた。
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