「なぁ、茂野。お前彼女とケンカでもしたのか?」
「はぁっ? なんだよ、突然」
授業も終わり、割り当てられた部室でユニフォームに着替えていると突然藤井がそう切り出してきた。
あまりの突拍子もない質問に自分には初めから彼女などいない。と言おうとしてハッと口を噤んだ。
よく考えれば、藤井には恋人の存在を見抜かれていてそれが男であると言う訳にもいかずに“彼女”がいる。と言う事にしていたのだ。
慌てて口を閉ざした吾郎を見て、何を勘違いしたのかニヤリと笑う。
「最近のお前、なーんか機嫌悪いからな」
図星だろ?
肩をがっしり組まれ顔を覗き込まれ視線を逸らす。
機嫌が悪いつもりはない。
だが、そう見える原因があるとすればそれは一年の綾音と大河にあった。
自分の態度があからさまにおかしいと感じたのか、何故か大河は執拗に綾音情報を吾郎に流してくる。
別に女には興味無いのだが、寿也と綾音が文通している事(しかもずっと前から)などを聞かされては心穏やかでは居られない。
彼女を見る度に心のもやは広がってゆき、不快でいたたまれない気持ちになってしまう。
出来るだけそんな感情を隠そうと練習に打ち込んでいたのだが藤井の目にはそれが“不機嫌”に見えたらしい。
「で? なにやらかしたんだよ、お前」
「うっせぇな。なんでもねぇよ。俺は別に機嫌悪くなんかねぇっての」
「またまた〜、隠すんじゃねぇよ。俺とお前の仲じゃねぇか」
野次馬根性丸出しでしつこく絡んでくる藤井にうんざりする。
いつからそこまで仲良くなったんだとツッコミを入れたくなったがそれは敢えて堪えた。
「何やってんっすか?」
「おっ! 大河じゃねぇか」
丁度そこに気分を悪くさせる情報源が現れて、吾郎の気分はますます鬱々としてくる。
藤井は仲間が現れたとばかりに事情を説明し、一緒に話を聞き出そうぜなどと大河を誘い込もうとしていた。
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