海堂編

LoveSick


桜の咲く季節になり、新しいマネージャー鈴木綾音も加わった。

爽やかな春風に包まれながらペコリと挨拶をする彼女。

「やっぱむさ苦しい野球部にはこういった華がねぇとつまんねぇよな〜」

予想外の新メンバーに藤井などは鼻の下を伸ばしっぱなしだ。

綾音の登場で浮足立つメンバーの中、吾郎だけは口を間一文に結んだままジッと彼女を見つめていた。

いや、睨みつけていたと言った方が正しいかもしれない。

(あいつ……確か寿也と一緒にいた……)

「……」

和気藹々としたムードの中、大河は吾郎の表情を観察していた。

もちろん、吾郎がそれに気がつく事は無かったのだが。

「なぁなぁ、付き合ってる子とかいる? もしフリーなら俺と付き合ったりしちゃわない?」

「バーカ! あんたみたいなヘタレ金積まれてもイヤに決まってんじゃん」

早速ナンパしにかかる藤井に美保のツッコミが入る。

同時にドッと笑いが周囲を包み、綾音もまた愛想笑いを浮かべていた。

「どう頑張ったって無駄だって。アイツが好きなの佐藤先輩なんだから」

「!?」

ボソリと呟いた大河の言葉に吾郎の耳がピクリと動く。

「そうか、やっぱりアイツあの時の……」

もう一年も前の話なのに寿也と二人で笑い合う姿が鮮明に蘇る。

「どうかしたんっすか? さっきからすっげぇ怖い顔して。まるで苦虫でも噛み潰したみたいな顔してますよ」

ひょいっと顔を覗き込まれジワリと沸き起こる嫌な気分を悟られまいと視線を逸らす。

「お前にはカンケーねぇよ。 さ、練習すっぞ」

浮足立っているメンバーの気持ちを切り替えるように少し大きめの声を上げ、ウォーミングアップを開始する。

自分たちにゆっくりしている暇など無いのだ。

例え綾音が寿也の事を好きでも自分には関係ない。

今は少し距離を置いては居るが寿也の気持ちは知っているのだから。

そう自分に言い聞かせて、いつもより少しペースを上げてアップしていく。

「ハァハァ、先輩〜ちょっとキツいっすよ〜」

「はぁ? 何言ってんだよ。こんくらい大した事ねぇだろ」

「お、お前の体力と一緒にすんじゃねぇっての!」

邪念を振り払うようにいつもの倍のメニューを黙々とこなしていく吾郎に次々とブーイングが沸き起こる。

「……茂野先輩っていつもあんな感じなんっすか?」

「さぁ。今日はなんだか虫の居所が悪いみたいだな。付き合ってられねぇ」

大河の問いに田代は尻の砂を払い、肩を竦めた。

「ふぅん」

「あいつの事はほっとけ。奴に付き合ってたら参っちまう」

呆れモードでバッティング練習に入る田代の側で、大河は吾郎を見つめていた。


/ススム

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